第50章 自由のために
大太刀の切っ先が副官を捉え、その間合いを一気に詰める。
“インジェクションショット”
「――ッ!」
光槍のような一突きが副官の肩を抉った。
「ぐあぁぁあ!!」
咄嗟に武装し守ったが、覇気の強さはローの方が格段に上。
「なぜ、こんなに強く……ッ」
副官がローと対峙するのは今日が初めてだが、彼の力量は報告書で知っている。
短期間とはいえ、ローは七武海だったのだ。
ローが反旗を翻したパンクハザードでの一件。
あれからまだ、数ヶ月しか経過していないというのに、ローの強さは報告書に記されていたものと大きく異なる。
とても、同一人物だとは思えないほどに……。
「セイレーンが、変えたというのか。」
人は、大切のものができると強くなる生き物。
海兵にとっては、正義。
なにものにも変えられぬ、唯一無二。
「まさか…我らの正義を、上回るとでも……?」
そんなこと、あってはならない。
傷ついた肩を庇い、刀を構える。
「てめェらのくだらねェ誇りなんざ、知ったことか。人を人とも思わない正義なら、さっさと滅びてしまえ。」
正義のため、珀鉛病の町人を皆殺しにする。
正義のため、王国を奪った海賊を野放しにする。
正義のため、正義のため、正義のため。
「なにが、正義だ……。」
目的のためとはいえ、一度でも政府に身を寄せた自分が恥ずかしい。
穢れた毒牙に、最愛の人を晒したりなどしない。
「返せ、アイツのものは、細胞ひとつですらてめェらに渡さねェ。」
「黙れ、海賊風情が……!」
渾身の覇気を纏い、副官が斬り掛かってくる。
しかし、怒りを増したローが相手では、歯が立たない。
“カウンターショック”
激しい電撃が身を貫き、その場に崩れ落ちた。
倒れた副官の懐から、ころころと小瓶が転がってくる。
中には、小さな爪の欠片。
それを黙って拾い上げ、ポケットにしまう。
目標は、達成した。
仲間たちのもとへ戻らなければ。
……ガッ。
倒れた副官がローの裾を掴む。
「……行かせん。」
「それほど、くだらねェ正義のもとで死にたいのか。」
ならば、叶えてやろう。
光る刃を再び向けた時、突然声が降ってきた。
「海賊ごときが、正義を口にするこたァ許さん!」
威圧的な声色、独特な口調。
聞き覚えがある。
この声の主は…――。