第50章 自由のために
雪国のいいところ。
それは、厳しい気候によって緩くなる警備と、視界の悪さ。
門番をする兵や、見回りをする兵。
ある程度の警備はあるものの、極寒ゆえに無駄に外へ出たりせず、警戒も薄い。
備蓄倉庫がそうであったように、基地もまた、制圧することは簡単そうに見える。
(厄介なのは、副官の居場所を探り当てることか。)
副官の行方を指し示すビブルカードは、ローのもとにある。
これを辿っていけば、いずれ出会えるだろうが、相手も人間なので、じっとしてはいない。
かといって、ちんたらビブルカードの動きを追っていては、あっという間に敵に囲まれ、思うように進めなくなる。
海兵の面倒なところは、正義という大義名分のもとに、揃いも揃って忠誠心が高いこと。
もしこれが海賊ならば、身体をばらばらに切り刻み、恐怖で心を支配するが、海兵相手だとそうもいかない。
どんなに拷問しようとも、口を割るようなボンクラは新世界に派遣されていないだろう。
「チ……ッ」
舌打ちひとつして、ポケットに突っ込んだビブルカードを探る。
すると、紙きれとは別に、なにやら固い感触を覚えた。
「……?」
その正体に心当たりがなくて、そのまま引っ張り出した。
「これは……。」
ポケットから出てきたのは、大きなエメラルドがついた指輪。
これは、モモから預かっていた指輪だ。
ずっと前から預かっていたが、返すタイミングを逃すうちに、すっかりそのままになっていた。
メルディアが肌身離さず持っていた方がいい…などと言ったため、革紐に括られてペンダントのようになっている。
モモの大切な指輪。
返さないわけにはいかない。
「なにがなんでも、帰らねェとな。」
心のどこかで、なにかあったら自分が…という気持ちがあったことは否めない。
しかし、それではモモがしたことと同じだ。
知らず知らずのうちに、ローはモモと同じ道を辿ろうとしている。
「これじゃ、アイツを責められねェ。」
必ず、帰る。
決意を固めるように、エメラルドの指輪を首から下げた。