第50章 自由のために
ローの指示を聞いたペンギンとジャンバールは、腕を組んだまま、しばらく黙り込んでいた。
だが、ローはもともと返事を待つような男ではない。
言うことだけ言ったら、さっさと備蓄倉庫を出て行こうとする。
それに焦ったのは、2人の方であった。
「待ってくれ、船長。」
「なんだ。」
なにか用でもあるのか…と言いたげなローだが、2人からしてみれば、用だらけである。
「なんだ…じゃないッスよ。今の指示って、なにか起きた時には、船長を見捨てて逃げろ……そういう意味ッスか?」
むしろローの口振りは、まるで自分が囮になるみたいに聞こえる。
しかし、実際そのとおりなのだろう。
「……勘違いするなよ、俺はひとりの方が、いろいろと行動しやすい。お前らがいたんじゃ、面倒になる。」
「……。」
そんな冷たい言葉を浴びせられても、ペンギンもジャンバールも、その裏に潜む真実に気づいている。
だからこそ、なにも言えない。
「……了解した。」
ジャンバールと同じように、ペンギンも黙って頷く。
本当は、そんな最悪な事態にならないよう力を合わせよう…とか、自分の身を案じてくれ…とか、いろいろ言いたいことはある。
しかし、そのどれもが無駄だと知っている。
我らが船長は、強引で傲慢で、そして仲間想いな人だから。
「わかったッス! こっちのことは俺らに任せてください!」
ペンギンにできることは、少しでもローの気がかりを減らしてあげることだけ。
「……悪いな。」
帽子を被り直し、今度こそローは備蓄倉庫を出て行く。
その背中を見送っていると、なにも知らないベポとシャチが声を掛けてきた。
「キャプテン、なんだって?」
「……別に、たいしたことはない。俺たちのことを心配していただけだ。」
「なんだ、船長も心配性だよなぁ!」
真実を告げていないが、嘘も吐いていない。
ベポたちと一緒に、作業を再開した。
「本当のことだ。船長はただ、心配しているだけ。」
ペンギンの隣で、ジャンバールが独り言のように呟く。
「そうッスね。……そうだといいんスけど。」