第50章 自由のために
ローの能力は使い勝手がよく、遠距離攻撃、近距離攻撃ともに優れているが、唯一の弱点は使うほどに体力を消耗すること。
ゆえに“万が一”に備えるには、仲間の協力が不可欠。
そんなローの要望に、仲間たちは十分すぎるほど応えてくれる。
暗くて少しカビ臭い備蓄倉庫の中には、米や小麦などの食糧、それから船の補強に使われる木材などが置かれていた。
「やっぱ、火薬はないッスね。」
「当然だな。こんな倉庫に火薬を保管していたら、あっという間に湿気てしまう。」
「アイアイ、生意気だぞ、ジャンバール。そんなこと、おれたちだって……わかってたさ!」
制圧先を備蓄倉庫に決めた理由は2つ。
ひとつは、海軍基地から離れた場所にあったから。
そしてもうひとつは、火薬があることを期待したからだ。
「船長、どうします? 船の火薬をシャンブルズで移動させますか?」
「……。」
こんな時のために、火薬は多めに積んである。
しかし、なるべくなら船の火薬はとっておきたい。
(この島から脱出する時に、必要かもしれねェからな。)
火薬がなければ、せっかくの大砲も宝の持ち腐れ。
(だが、倉庫にない以上、背に腹は変えられねェ。)
陽動作戦には、大量の火薬が必要だ。
倉庫の外に出て、基地のある方向を確認する。
ここから大きな火の手が上がれば、いかに森の中であっても、基地に異変が伝わるだろう。
そうでなくては困るのだ。
備蓄倉庫を囲む森は、背の高いもみの木が生い茂っている。
幹の表面が凍り、霜がこびりついた木肌から、なにか赤い色が覗いていた。
「あれは……。」
地面に積もった雪をざくざくと踏み鳴らし、もみの木に近づいていく。
「キャプテン? どこ行くの?」
ベポが後ろをついてくる。
もみの木の前に立ち、表面の霜を払うと、そこには氷点下の寒さにも負けず、木肌にしがみつくキノコの姿が。
「キノコだね。それ、どうするの? 食べられるの?」
「バカを言うな。食ったら腹を壊すどころじゃねェぞ。」
千切って匂いを嗅いでみると、ツンとした刺激臭。
間違いない、これは……。
「……ニトロダケだ。」