第50章 自由のために
ペンギンの報告によれば、島の北側に位置する森に、海軍の備蓄倉庫がある。
大きな樹の上から様子を窺っていた一同は、倉番をする海兵を見下ろし、軽いため息を吐いた。
「ハァ…、隙だらけッスね。」
「守るつもりあるのかよ、ヤル気が感じられねぇぜ。」
ペンギンやシャチの言うとおり、備蓄倉庫を守る海兵たちからは、職務を全うする意志を感じられない。
ただ機械的に動いて、決められた通りに見回りをするだけ。
「しかたねェさ。ヤツら、襲撃なんか受けたこともねェんだろうよ。」
こんな辺鄙な極寒の冬島。
誰が好き好んで襲うというのだ。
海軍にとっては重要な拠点であっても、海賊にとっては面倒事でしかない。
避けて通るべき道。
敵襲もなく、淡々と職務をこなすだけ。
そんな生活は、やがて油断へと繋がる。
「お前ら、わかっているな。制圧は迅速かつ円滑に。」
「「アイアイサー!」」
まず最初に事を起こしたのは、ジャンバール。
凍てつく大樹から飛び降りて、ずしんッと粉雪を舞い上げる。
「なんだ…──」
驚いた海兵が振り向くが、その頃にはもう遅い。
粉雪が舞い終わる前に、鍛え上げられた巨体が渾身の拳をお見舞いする。
「ぐぁ……ッ」
「ごふ……!」
あっという間に気絶させられ、臨戦態勢に入る暇もない。
そして、騒ぎを聞きつけた他の見回り隊が駆けつけるが、やはりそれも遅かった。
「どうした…──ぐぇッ」
「な、なんだ!? ……ぎゃあ!」
音もなく接近したペンギンとシャチが、常人離れした身のこなしで、見回り兵を次々と倒していく。
そして、最後はベポ。
「アイアイ、どきなどきな!」
雪と寒さに強いベポは、いつもより動きが機敏だ。
目にも止まらぬスピードで体術を繰り出し、ついでとばかりに倉庫の扉に一発。
「アイアイ、アイ~ン……ッ」
ドコン…!
頑丈に作られた倉庫の扉が、激しい音を立てて吹き飛ぶ。
それと同時に最後の海兵が倒れ、制圧が完了する。
倉番の兵は基地へ連絡する暇もなく倒され、そして船長であるローは、いっさい手出しをすることもなく終わった。