第50章 自由のために
この船の中で、1番広い部屋は実は男部屋である。
使う人数が多いからという理由もあるが、ベポやジャンバールのように、身体の大きなクルーがいるからでもあった。
広い部屋は過ごしやすくていいかもしれない。
しかし、その分掃除が行き届かないのが現状だ。
「……くしゅん!」
部屋に入るなり、埃っぽくてくしゃみが出る。
「潜水艦って、窓が開かないことが難点よね。」
水圧が異なる海底では、僅かな窓の隙間ですら浸水の原因となり、大事故に繋がる。
そのため、この船に取り付けられた窓は、すべて開閉できない仕組みとなっていた。
潜水していない時は、空島で調達したブレスダイヤルが換気ファンの機能を果たし、空気の入れ換えができているが、海中ではそうもいかない。
「母さん、やっぱり掃除はやめておいた方がいいんじゃねーの?」
埃も臭いも逃げ場がないのに、1番汚い部屋を掃除するなんて無謀すぎる。
しかし、他にすることもないのだ。
ならば、少しくらい苦しい思いをしてでも、なにかに没頭していたい。
「こんな部屋で生活してたら、みんな病気になっちゃうわよ。」
バケモノ級に身体が丈夫な彼らには、あまり病気という概念がない。
聞いた話だと、風邪をひいたこともないというのだから驚きだ。
ああ、でも、そういえばコハクも今までに風邪ひとつひいていない。
バケモノの血が濃厚な証拠。
「いくら身体が丈夫でも、病気にならない保証はないんだからね!」
さあ、やるぞ!
気合いを入れて袖を捲り、髪も結わいた。
「まずは片づけね。こう散らかってたら、モップもかけられないもの。」
男性陣の寝床はハンモック。
床に吊されているから、スペース的には問題ないはずだが、なぜこんなにも散らかっているのか。
釣具に雑誌、それから丸くてふわふわしたもの……きっとベポの毛玉だ。
「明らかにゴミっぽいものは捨てちゃうから、コハクはいるものといらないものを仕分けでちょうだい。」
「了解……。」
ゴミ袋片手に毛玉やらちり紙やらを捨て、コハクはガラクタの選別に勤しんだ。