第12章 デート
「ロー、なにを読んでいるの?」
お風呂から上がり部屋に戻ると、ソファーでローが本を読んでいた。
「ああ、この島の本だ。」
「この島の本? 珍しいね、そんな本持ってたの。」
ローの部屋には山ほどの本があり、モモが把握していない本も数多くある。
けれど、どれも医療に関わるもので、そんな本があるとは意外だ。
「いや、さっきお前が食材を選んでいるとにに買った。」
「え、そうだったの?」
食材選びに夢中で、全然わからなかった。
隣に座り、本を覗いてみる。
「なにか面白いこと、書いてある?」
「ああ、なかなか参考になるな。」
参考?
なんの…?
そう聞こうとしたところで、ローはパタンと本を閉じてこちらを振り向いた。
「…髪が、濡れてる。」
「え…。」
しっかり拭いたつもりだが、いつの間にか毛先からは雫が落ちていた。
「風邪ひくだろうが。ちゃんと拭けって何度言えばわかる。」
タオルを奪われ、丁寧に拭われる。
「拭いてるんだけど…。」
髪が長い分、水気も多く含んでしまうのだ。
「髪、切ろうかなぁ…。」
ポツリと呟いた一言に、ローは過剰に反応した。
「切るだと? 絶対、許さねェ。」
え、そんなに?
「髪、長い方が好きなの?」
「そういうわけじゃないが…、もったいねェだろうが、こんなに綺麗なのに。」
モモの絹糸のような手触りの髪が、ローはとても好きだ。
(綺麗…。)
そんなふうに言われたことがなくて、モモは僅かに頬を染める。
彼がそう言うなら、ずっと伸ばしておきたいと思う。
「確か、空島とかいう空に浮かぶ島には、風を起こす貝殻があるって聞くが…、それがあったら乾かすのも便利だな。」
「空に浮かぶ島があるの!?」
貝殻よりも、そちらの方が驚きだ。
「ああ、そのうち行ってみてェと思ってるが…。」
空に浮かぶ島、そこにはどんな動物が、植物が生息しているのだろうか。
「わたしも、行ってみたい。」
「当然だろ。俺たちが空島に行くときは、お前も一緒だ。」
「本当? 嬉しい、楽しみだね。」
空高く聳える、天空の島。
いつか彼が行くときは、その隣に自分もいるのだと、この時は信じて疑わなかった。