第50章 自由のために
「……行っちゃった。」
ローたちが行ってしまうと、船に残されたのはモモとコハクとヒスイだけ。
いつもは騒がしい船内が、嘘のように静まり返る。
「みんな、大丈夫かな。」
独り言のように呟けば、後ろからバチンとお尻を叩かれた。
「母さん、心配しすぎ。ローの心配性が移ったんじゃねーの?」
「失礼ね。仲間を心配するのは、当然のことでしょう?」
「……ま、気持ちはわかるけど。」
コハクの身体は小さい。
けれどそれは、特別なことでもなんでもなく、ただ子供なだけ。
しかたのないことだとは知りながらも、無性に腹立たしく感じる時がある。
なぜ、もう少し早く生まれてこなかったのだろう。
なぜ、もっと早く成長できないのだろう。
ローと同じくらい強く…という贅沢は言わないが、せめて他のクルーたちと同じくらいの強さが欲しい。
そうしたら、どんな危険な地にも胸を張ってついていくのに。
(オレも、母さんのことを言えないな。)
モモと同じくらい、コハクもみんなを心配している。
「きゅきゅ…きゅ?」
そんな自分たちをヒスイが不思議そうに見つめ、ちょろちょろと床を歩き回った。
「こうしていると、3人で暮らしていた時を思い出すわね。」
幸せで平穏で、そして退屈な日々。
今の環境を知ってしまったら、もう過去の生活に戻ることはできない。
それほどまでに、居心地がいい。
ふと思った。
“あのこと”を聞くのは、今なのではないか。
ローたちがいない、今なら……。
「なあ、母さん。」
「なぁに?」
「オレとローって、似てるかな?」
「え…、あ……そうね。少し似てるかもしれないわね。」
そう答えるモモは、どこか挙動不審だ。
「どうして…、そんなことを聞くの?」
「実はさ、ちょっと前から考えてたんだけど、ローって……。」
言いかけて、口を噤んだ。
だって、モモの顔色がみるみるうちに青くなるから。
(……そんなに聞かれたくないことかな。)
モモの考えることは、よくわからない。
だけど、それほど聞かれたくない理由を、なんとなく想像できた。
(オレが先に聞いちゃダメなんだ。)
この質問をすべき人は、自分じゃない。
もどかしい想いに苦しみながら、コハクは口を閉じた。