第50章 自由のために
「お前たちに、これを預けていく。」
「……これって。」
ローに手渡されたのは、電伝虫。
また増えた! と驚いたが、この電伝虫はリビングの集団よりもだいぶ小さい。
「携帯用の電伝虫だ。もうひとつはベポたちに持たせる。盗聴される恐れがあるから、通信は最終手段だがな。」
携帯用に盗聴用。
電伝虫にも、いろんな種類がいるものだ。
「ローは持っていかないの?」
「俺はいらねェ。お前たちと連絡が取れなくても、どうにでもなるからな。」
例え船に乗り遅れても、ローならば逃げられるし、後々合流もできる。
「さァ、もたついてるヒマはねェ。お前ら、行くぞ。」
「アイアイ、キャプテン!」
モモとコハクを除くクルーが一カ所に集まると、ローが手のひらを開き、能力を展開させる。
“ROOM”
普段より大きめに張ったサークルは、海中を突き抜け、島にまで届く。
「気をつけてね。無茶はやめて、危ない真似もしないで。」
しばらくの別れ。
しかし、ついていけない不安から、次から次へと心配事が溢れてくる。
いくつもいくつも注意していたら、おもむろにローが身を屈めた。
「危険だと思ったら、引き返してね。それから…──」
「そろそろ、黙れ。」
さらに言葉を紡ごうとしていた唇が、突然塞がれる。
「ん…、んん……!?」
ふさふさな帽子の肌触りを額に感じ、凛々しい顔が目前に迫ったことで、口づけされていることを知った。
重なり合った唇が角度を変え、一瞬にして深くなる。
「ふ……。」
甘い体温に酔いしれそうになったが、ふと状況を思い出す。
「……ッ!」
ローの肩を押しのけ、慌てて唇を離すと、その場にいる誰もが自分たちから目を背けていた。
「あ、どうぞどうぞ、続けて。」
不自然に俯いたシャチから言われて、燃えるように顔が熱くなる。
「ロ、ロー…ッ、みんなの前で…こんなこと……!」
「あ? どこでなにをしようが、俺の勝手だろう。」
いつもの暴君ぶりを発揮して、彼は不敵に笑う。
「いい子で待ってろ。すぐに戻ってくる。」
僅かに濡れた唇をぺろりと舐め、ローは手のひらをくるりと回した。
“シャンブルズ”
すると、たった今までそこにいたローたちが、忽然と姿を消す。
「あ……!」
いってらっしゃいも言えないまま、彼らは行ってしまった。