第50章 自由のために
グランドラインで1番困難なこと、それは航路の予測である。
目的地はログポースが指し示してくれるが、あとどのくらいの距離、時間でたどり着くのか、一流の航海士であっても予測がつかない。
しかし、海軍には奇跡の天才と謳われた発明家がおり、かつては不可能だと言われていたことを、数々と成し遂げた。
例えば、海王類の住処、カームベルトの航海。
そして、人造人間の開発。
そんな海軍だからこそ、あらゆる海域の情報を把握し、一介の海賊では困難な島への航路予測を可能とした。
けれど、その貴重な海図はどの軍艦にもあるわけではない。
「チ…ッ、海図の1枚でも奪えれば良かったんだがな。」
「船長…そりゃァ、贅沢ってもんですよ。なあ、ベポ。島までどのくらいか全然見当つかねぇのか?」
シャチの問いに、ベポは腕を組みながら「うぅーん」と唸る。
「詳しくはわからないけど…、そんなに遠くないはずなんだ。……ほら見て、雪だ。」
リビングから窓の外を眺めると、いつの間にか雪が降り、風に巻き上げられて吹雪いていた。
「この吹雪なら、海軍のヤツらもオレたちの船を探せないんじゃねぇの?」
「コハクの言うとおりだな。今のうちに潜水するぞ。」
「アイアイ! 了解、キャプテン!」
酸素の補充はとっくに終わっている。
ベポが操縦室に駆けていき、ほどなくして船体が沈み始めた。
分厚い氷で覆われた海は、普通の船では身動きができない。
けれど、海中までが凍るはずもなく、潜ってしまえば航路を妨げるものはなくなる。
水温が下がると、それに比例して海中の透明度は上がり、まるで海上にいるかのように見通しがいい。
船内の室温が下がることを除いては、不気味なほど順調な航海。
「嵐の前の静けさじゃなければいいけど……。」
「そんなことを心配する前に、お前は自分の身体でも心配していろ。」
「わ……ッ」
ばさりと頭からパーカーを被せられ、モモは驚きの声を上げた。
「身体が冷える、部屋へもどれ。」
「……ローは?」
「あとから行く。」
そう言うと、ローは先ほど手に入れた島の地図を手に、リビングを出て行く。
それぞれが持ち場に戻ったため、リビングに残されたのは、モモと電伝虫たちだけとなった。