第50章 自由のために
ローの指示を受けて自室にこもったモモは、みんなの様子が気になって、部屋の中を行ったり来たりしながから、落ち着かない時間を過ごしていた。
今頃、船の上はどうなっているのだろう。
ベポたちはもちろん、コハクやヒスイまで闘っているのに、自分ひとりが安全な場所にいる。
それが不甲斐なくて、情けない。
でも、そう考える反面、冷静に考える自分もいる。
生死が交わる戦場に自分が立って、なにができるのだろう。
ローの言うとおり、大砲の弾を運ぶことさえ満足にできず、ましてや人に斬りかかることなど不可能だ。
そっと手のひらを開き、食い入るように見つめた。
真っ白な手のひら。
この手には、汚れひとつついていない。
治療以外の目的で、血に触れたことがないモモは、いつでもみんなに守られている。
剣を持ったことも、銃を構えたこともない。
果たしてその姿は、海賊として正しいのだろうか。
(誰かを傷つけたいわけじゃない。でも、守られるだけの存在でいたくないわ。)
しかし、人には向き不向きというものがあり、どう足掻いてもモモには戦闘は不向き。
剣を手に取り、鍛錬を重ねれば少しは様にもなるだろうが、そんな時間があるのなら、より多くの薬を作った方が役に立つ。
コハクはモモの子だが、モモはコハクのようにはなれない。
自分にできることは、薬の調剤と歌を唄うことだけ。
その歌ですら、今は効力を発揮せず、使えるようになったとしても、人を傷つけることはできない。
滅びの歌によって消えたセイレーン。
種を滅ぼすような強大な力。
禁忌とされているその歌を、彼女たちはどうして唄ったのだろう。
唄えば、どうなるか知らなかったわけでもあるまい。
そして滅びの歌は、どうして誕生したのだろう。
誰かが生み出さない限り、歌は生まれない。
大昔のセイレーンは、どうしてこの歌を……。