第50章 自由のために
潜水艦が海面に浮上したことを確認して、モモたちはハッチを開けて外へ出た。
流氷浮かぶ海の上は、一面銀世界。
新鮮な空気と潮の香りが懐かしい。
だけど、それよりもまず先に抱いた感想は……。
「……寒い。」
冬の気候に入ったとは散々聞いていたけど、冬ってこんなに寒いんだっけ?
吐いた息が凍りそう。
寒さに耐えきれず、暖を取るためにモフモフな白クマにびたりと抱きついた。
「あれ、どうしたの? モモ、寒いの?」
「さ、寒い…ッ! ベポは寒くないの?」
「うん、おれは寒さに強いから。」
そうだよね、白クマだし。
その代わり暑さにすこぶる弱いのだが、今は厚みのある毛皮が羨ましい。
「ベポの故郷も寒いの?」
「うーん、寒かったり暑かったりするかな。おれの故郷は移動するから、いろんな海域を通るんだよ。」
「移動するの? 島なのに?」
「島っていうか…、象なんだけど。いつかモモも、行けるといいね。おれの故郷、すっごくおもしろいよ。」
ベポの故郷については全然わからなかったけど、どうやら不思議な島らしい。
(移動する島…か……。)
それはまるで、空島のようだ。
天空に聳える空の島。
モモは結局、あの島に行くことができなかった。
この潜水艦のいたるところに、ダイヤルという特殊な貝が使われているが、それはどうやら空島の産物らしい。
そんな貝があるのなら、モモの知らない植物だってたくさん生えていたことだろう。
時折、空白の6年間が惜しくなる。
モモがいない間もローたちは確実に冒険を重ね、たくさんの思い出を作ったはず。
(なんで、今さらこんなことを考えてしまうのかしら。)
これからはずっと一緒なんだから、疎外感を覚える必要はない。
なのに、どうして……。
「モモ、大丈夫?」
あまりにも黙ってしがみついていたから、心配したベポがこちらを覗き込んでくる。
「あ、ごめんなさい。大丈夫よ。」
急いで笑顔を作り、誤魔化した。
不安な顔をしていたら、みんなに伝わってしまう。
(大丈夫、あの時とは違うんだから。)
ただ少し、雪の白さに目眩を覚えただけ。
それだけだ。