第50章 自由のために
生まれて初めて雪を見た。
すべてを飲み込むかのような、まっさらな白。
あの白さに歓喜し、恐怖したのは、今も記憶に新しい。
愛しい命の存在を知り、最愛のあなたと別れを決意した日。
今もずっと、忘れない。
待ち受けるのは、冬の島。
凍てつく寒さの冬島は、今度はモモに、どんな運命を用意しているのだろうか。
「う……。」
喉が痛い。
それに、腰も重くて動かない。
なんとか寝返りを打ち、青虫のように蠢いていると、頬にひやりと冷たいものが当てられた。
「きゃ……ッ」
驚いて顔を上げると、ジーンズを穿き、上半身は裸のローと目が合う。
またそういう格好ばかりして……。
苦言を漏らしたかったけど、なんだか喉が痒くてゲホゲホと咳き込んだ。
「ほら、水を飲め。」
そう言って差し出されたものは、先ほど頬に当てられた、水の入ったグラス。
「あり…がと……。」
それを受け取り、ゆっくり飲み干しながら、なぜこんなにも辛いのかを考えた。
だが、考えるよりも前に、状況がそれを教えてくれる。
のそりと起き上がり掛布から這い出ると、一糸まとわぬ自分の素肌。
見慣れた白い肌の上に、たくさんの口づけの痕が散っている。
その色は、ローの情熱を現すかのように赤い。
「……ッ!」
とたんに昨夜の行為を鮮明に思い出し、頭の中が沸騰する。
寝込みを襲われ、狂うほどの快楽を与えられ、貪るように何度も何度も。
おかげさまで、喘ぎすぎた喉は痛いし、受け入れすぎた腰は重い。
「もう…ッ、どうしてくれるの。まともに動けないじゃない。」
掠れた声で詰るけど、彼に反省した様子はない。
「一応は我慢した。」
「……どこが?」
「本当なら、あと2、3回やりたかった。」
「……。」
このバケモノめ。
若くて結構なことだが、付き合わされる方は堪ったものじゃない。
ちくちくと刺すような視線で睨むと、ローはようやく謝罪の言葉を口にする。
「わかったわかった、悪かった。次からはもう少し加減をする。……たぶんな。」
最後の一言だけ、余計だと思う。