第12章 デート
「ロー、なにも買わなくて良かったの?」
「ああ。」
あの店でモモになにか買っても、意味がないとわかった。
(喜ぶもの、か…。)
チラリと隣を歩くモモを見る。
彼女の喜びのハードルは低い。
だから例えば、さっきの店でなにか適当なものを買ってあげたとしても喜んでくれるだろう。
(それじゃ、ダメだ。)
なにか、一生の思い出になるような、そんな贈り物がしたい。
『誰かになにかをしてあげたい』そんなふうに思うのは、いつ以来のことか。
モモはローにたくさんのものを与えてくれる。
だから自分も、それに見合うものを返したいのだ。
「昼メシでも食って帰るか?」
立ち並ぶ飲食店を指して言った。
「んー、いや、船で食べようよ。」
今日は船にみんないるのだ。
ひさしぶりに食卓を囲みたい。
「お前は本当にインドアだよな。」
「ローに言われたくないけど…。」
確かに自分も外より室内の方が落ち着くタイプだが、ローだって研究と称して1日中自室に籠もることは少なくない。
案外、自分たちは似たもの同士かもしれない。
「じゃあ、食材でも買って行くか。」
「うん!」
嬉しそうに頷き、2人は市場へと向かった。
「ただいま!」
大量の食材を買い込み、船へと戻った。
「あれ、おかえり。…早かったッスね。」
「うん、みんなお腹すいてるかなぁと思って。」
両手が塞がっているため、ペンギンがキッチンのドアを開けてくれた。
「そんなの気にしなくていいッスよ。せっかくのデートなんだからもっとゆっくり楽しめばいいのに…。」
「デート…?」
「あれ、違うんスか? 船長はそのつもりだったと思うけど。」
え…。
衝撃的など事実に手の力が緩み、荷物をズルリと落とす。
「おっと、危ね…ッ」
床に落ちる前にペンギンがそれをキャッチする。
しかし、モモはそれどころじゃない。
(デートって、デートって…、あのデート?)
世の恋人たちがするという、あの…。
考えてみれば、自分たちは想いが通じ合ったのだから、「恋人」ということになるのではないか。