第50章 自由のために
「すぅ…、すぅ……。」
しばらくすると、隣から静かな寝息が聞こえてきた。
本から目を離し、ちらりと様子を窺うと、モモは安らかな寝顔で眠っていた。
冷えきっていた身体は温もりを取り戻し、とりあえずは安心する。
自分たちと違って、モモは弱い。
多少気温が下がっただけで、こんなにも冷たくなってしまう。
まだ少し水気を含んだ髪を梳くと、僅かに身じろいだ。
「ん……。」
細く折れそうな身体。
力いっぱい抱きしめたら、簡単に壊れてしまいそう。
桜色に艶めく唇を、親指の腹でそっとなぞった。
政府は、海軍は、ことごとくローから大切なものを奪っていく。
かつて失った家族。
二度と手に入らないと思っていたそれを、自分は再び掴んだ。
モモと歩む未来には、ひとり、またひとりと新たな家族が増えるのだろうか。
そんな未来に、暗雲が漂ってはいけない。
これ以上、ヤツらになにも、奪わせはしない。
唇の端から指先を差し込み、小粒な歯に触れ、薄く開いた隙間から口腔内に侵入する。
赤い舌の上を這い、掻き乱すように指を動かすと、それに反応してモモの瞼がぴくりと震えた。
けれど、眠りに落ちた彼女が覚醒することはなく、逆にそのことがローの心をちりちりと煽った。
くちゅくちゅと音を立てて口内を弄くれば、溢れて飲み込めなかった唾液が流れ、唇の端を伝って顎下に落ちる。
「…ん…ぅ……。」
微かに甘い声が漏れ出し、無意識にモモの舌がローの指に絡まった。
「……。」
マズイ。
非常にマズイ。
ほんの悪戯のつもりだったのに、身体の奥に熱い炎がくすぶり始めた。
一度灯った炎は、徐々に大きくなってローを蝕む。
唇から指を引き抜くと、銀糸のような唾液が糸を引き、濡れた唇は果実のごとく艶めく。
つい我慢できずに、ぷっくりとした果実を食めば、極上に甘い。
その甘美な感触が、余計に熱を煽ることはわかっていたが、一度味わってしまえば、もはや止めることはできなかった。