第50章 自由のために
どうにかローを振り払って入浴をすませると、バスルームを出たとたん、身震いするような肌寒さを覚える。
(あれ、湯冷めしちゃったかな?)
髪も身体も、まだ湿っている。
急いで部屋に戻ろうとするが、ペタペタと通路を歩くたび、冷気が足を伝ってモモを襲う。
さすがにこれは気のせいではないと感じた頃、やけに足取りが軽いベポと鉢合わせた。
「あ、モモ~!」
「ベポ、お疲れ様。ねえ、なんだか寒いと思わない?」
「アイアイ、気持ちいい気温になってきたね!」
気持ちいいがどうかはさておいて、どうやらモモの勘違いではないらしい。
「冬の気候になってきたんだよ。たぶん近くに、冬島があるんだね。」
今朝まではあんなに暑かったのに、これだからグランドラインは侮れない。
また、海の中は深さに比例して水温が低くなる。
海上ではたいした寒さじゃなくても、海底近くを潜水していると、船自体が冷え、当然船内の温度もぐっと下がってしまう。
どうりで冷え込むわけである。
「これでおれは、ずいぶん過ごしやすくなるなぁ。」
「よ、よかったね。」
「あれ…、モモは寒いの苦手?」
手のひらで両腕をさする様子を見て、ベポは心配そうに首を傾げる。
「ちょ、ちょっとね。」
年中暖かい春島に住んでいたモモにとって、寒さは無縁なもの。
ついでに言えば、少し前の過酷な生活で身体の脂肪が落ち、寒さに弱くなった。
そもそも、女性の身体は冷えやすい。
「大丈夫? おれが温めようか。」
「え……。」
白くてもふもふな毛皮に思いっきり抱きつきたい。
だけど、先ほどのローの言葉が脳裏に蘇る。
(他の男のニオイ…か……。)
はたしてベポを男扱いしていいのか疑問であるが、数日間 風呂に入っていない彼に抱きつけば、確実になにかのニオイが移る。
暖をとるか、ローの機嫌をとるか……。
「だ、大丈夫。走って部屋まで帰るから!」
魅力的なベポのもふもふを諦め、冷える通路を全力で駆け抜けた。