第50章 自由のために
食べ終わった食器を手に、通路を歩いていると、なにやらドタドタと騒がしい音が聞こえる。
(ああ、トレーニングルームね。)
潜水艦であるこの海賊船には、広いトレーニングルームが完備されている。
船室内で長時間過ごすため、運動不足にならないための配慮だ。
非戦闘員であるモモは、身体を動かすには温室植物の世話で十分なので、この設備を使ったことはない。
しかし他のクルーたちは、なにが楽しいのか、潜水中はこぞってトレーニングルームに入り浸っている。
特になんの用があるわけでもなかったが、興味本位で部屋を覗いてみた。
「ふんッ、ふんッ」
まず目に入ったのは、シャチの裸体。
引き締まった身体で汗を流しながら、大きなダンベルを上げている。
そろりと目をそらすと、今度はサンドバッグ相手に、見事なタックルをかますジャンバール。
もれなく裸で。
「……。」
なんだこの、男の裸体祭り。
見なかったことにして、静かにドアを閉めようとすると、その寸前に声を掛けられてしまう。
「あっれー、珍しい。モモじゃないッスか!」
目ざとくモモを発見したのは、コハクに稽古をつけていたペンギン。
やはり、裸だ。
「母さん、こんなところでなにしてんの?」
妖刀 鬼丸を手にしてこちらに近寄ってきたコハクは、……良かった、ちゃんと服を着ている。
「なにっていうわけじゃないんだけど…、賑やかそうだったから、ちょっと覗いてみただけよ。」
それがこんな、裸祭りだとは思わなかった。
下着こそ履いているものの、言い方を変えれば、下着しか履いていない。
「なんで…、みんな服を着てないの?」
ここは脱衣場か? と言いたげに尋ねると、それぞれが頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げる。
「え、だって汗掻くし。」
「服着て動いたら、暑くないッスか?」
「洗濯する手間が省ける。」
常識人だと思っていたジャンバールまで平然と答えるから、なるほど…おかしいのは自分なのか、と諦めた。