第50章 自由のために
トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団の船は、波風など関係なく、暗い海底を進んでいた。
船首に取りつけられたヘッドライトが、時折とんでもない怪物を照らし出すこともあるが、船は順調に進んでいる。
「ベポ、お疲れさま。」
潜水中は、不測の事態が起こりやすいので、海上よりも気が抜けない。
海流を読むために、航海士であるベポは操縦室に入り浸りだ。
そんなベポの心労が少しでも減るように、モモは軽食とお茶を持って頻繁に操縦室を訪れていた。
「わー、モモ! ありがとう、ちょうどお腹が減ってたんだ。」
塩鮭のおにぎりが乗ったお皿を手渡すと、大きな口を開けてパクパクと平らげる。
「どう? 進路は。」
「いい感じだよー。海流も安定してるし、あとはもう少し…涼しくなるといいんだけど。」
潜水中はどうしても通気性が悪くなる。
暑さが苦手なベポには辛いだろう。
しかし、今 海上では大雨が降り、波も高い。
こうしてスムーズに進めるのは、潜水しているからこそ。
「冬島が近くなれば、海水が冷えて船も涼しくなるんだけどなぁ。」
「しばらくは潜水生活が続くものね。」
酸素の入れ替えのために、1日1回は海面に浮上するが、それ以外は海中を進む。
その理由は、無事に目的地へたどり着くためだ。
操縦室のテーブルには、ひと欠片の紙切れ。
ビブルカードだ。
これは、先日商船で手に入れたもの。
惚れ薬と引き換えに、ライラから得た。
このビブルカードの指し示す場所こそ、モモたちの目的地。
どれだけ距離があるかは、わからない。
しかし、決して遠くはないはずの目的地を思うと、胃のあたりがずしりと重くなる。
それでも自分のため、仲間のため、進まなくては。
「大丈夫だよ、モモ。おれたちがいるんだから。」
モモの不安を察したかのように、ベポが微笑む。
彼の笑顔は、今も昔も変わらない。
ベポの疲れを癒やしにきたのに、癒されたのは、モモの方だった。