第49章 休息
「なによ、これ。」
目の前に置かれた荷物を見下ろしながら、不審そうに尋ねるライラに、モモは胸を張って伝えた。
「わたし、薬剤師なの!」
「は? 薬剤師……?」
ライラからしてみれば、その宣言に首を傾げてしまうかもしれないが、そんなことなど気にせずに、荷物の紐を解く。
「ほら、見て。いろんな薬が揃ってるのよ。」
そう言いながら、テーブルの上に次々と薬瓶を並べていく。
風邪薬から鎮痛剤、整腸剤に炎症止め。
それから薬酒と湿布も出してみた。
「わたし、調剤の腕だけは誰にも負けないわ。効き目は絶対保証するから!」
荷物の中身をすべて出し、どうだ! とライラに勧めるが、彼女の反応は想像と違って薄い。
「薬、ねぇ……。悪いけど、必要ないわ。」
「え……ッ」
まさか少しの検討もされずに終わるとは思ってなくて、びしりと石のように固まる。
そんなモモの様子を不憫だと思ったのか、なぜか今度はライラが弁明を始めた。
「だってほら、ウチにも船医はいるし。それにウチの連中ときたら、風邪もひかないようなバケモノばっかりなんだもの。」
革命軍ほど大きな規模の集団なら、当然船医も腕が確かな者が担当しているだろう。
そんな船に乗る彼女からしてみれば、外部で購入する薬に必要性を感じないかもしれない。
でも、外部で購入するからこそ、自分じゃ思いつかない配合や効能を思いつく。
その貴重さに気がつくのは、医療に携わる者だけ。
困った。
興味のない人に価値を理解してもらうには、どうしたらいいんだろう。
ここで諦めるわけにはいかない。
モモは自分の薬をひとしきり眺め、なんとか興味を持ってもらおうと説明を始める。
「これはどう? 肌の調子を整える軟膏なんだけど、美白効果もあるの。」
「うーん、コアラは喜びそうだけど、あたしはあんまり焼けない体質だから。」
確かに、ライラの肌は透けるように白い。
女性は美人ほど美容に関心があるものだと思っていたけど、彼女はその部類に入らないらしい。
それでも、なにかひとつくらい、ライラの心を動かすものがあるはず。
退屈そうにするライラを引き止め、諦めずに説明を続けた。