第49章 休息
思わず、ローの腕にしがみつく。
「モモ?」
「ローの血を飲むなんて、絶対ダメ……!」
訝しげに首を傾げる彼を見上げ、思いの丈を叫ぶ。
ローは驚いたように何度か目を瞬かせたが、モモからしてみれば、そんな条件を認める方がどうかしている。
だって、いくら血液とはいえ、それはローの身体の一部。
それを他人の…他の女性の身体に入れるなんて。
輸血とは違う。
彼女の唇に触れ、喉を通って体内を巡る。
そんなどこか艶めかしさを感じる行為、絶対に嫌だ。
ありのままに気持ちを伝えると、あいかわらず唖然としていたローの表情がぴくりと動く。
その様子を見ていたシャチが、にやにやと笑い始めた。
「わー、船長…嬉しそう。」
「……ッ」
図星だったのか、眉をひそめ、渋面を作ったローがシャチの尻を蹴り飛ばした。
「いて…ッ、恥ずかしがらなくてもいいのに。」
「黙れ。」
射殺すように睨み口を噤ませると、ライラが呆れたように「はいはい、ごちそうさま」とため息を吐く。
「で、どうすんの?」
「……血は、渡せない。」
先ほどとは打って変わって意見を変えたローを見て、モモは安心すると同時に、ひしひしと罪悪感を覚える。
交渉している情報は、どちらも自分たちに必要なもの。
それも、ひとつはモモがしでかしたミス。
それを得られるチャンスを、自分のワガママでふいにするなど、本来ならばあってはならない。
けれど、すでにモモの気持ちを知ってしまったローは、もう意見を変えないだろう。
(なら、わたしが責任持って交渉しないと!)
このままでは引き下がれない。
ローの腕を離し、今度はライラの前に立ちはだかった。
「ライラ、わたしと交渉しましょう。」
「あんたと? 別にいいけど…、交渉価値のあるもの、なにか持ってるの?」
残念ながら、持っていない。
モモの価値といえば歌の力だけだが、その力も今は失っている。
……いや、違う。
もうひとつだけ、自分には価値があることを思い出す。
セイレーンの情報を買うために持参した荷物を引っ張り出し、ドンとテーブルの上に置いた。