第49章 休息
「ええっと、それで…、いくらくらい負けちゃったの?」
「40万ベリー…くらい。」
「……。」
賭け事をしないモモからしてみれば、それはもはや、金をドブに捨てる行為だ。
「途中までは調子が良かったんだ! 信じてくれよぅ!」
「シャチ…、賭け事で大損する人は、みんなそう言うって本に書いてあったよ。」
「うわぁぁん!」
ついには、みすぼらしい格好のまま、男泣きをし始めた。
その姿を見て、冷ややかな声を掛けてきたのは、シャチが対戦していた賭け相手。
「ちょっと、正確にはあと5万ベリー支払いが残ってるわよ。」
意志の強そうな女性の声。
その声は、どこか聞き覚えがあった。
ふと視線を対戦相手の方へ向けると、そこに座っていたのは、意外にもモモが知る人物だった。
「あ、あなたは……!」
とは言っても、彼女のことは、ほとんど知らない。
知り合いと呼ぶにはおこがましいし、顔見知りと呼ぶには受けた恩が大きすぎる。
「あれ、あんた…あの時のセイレーンの子?」
シャチの向かいの席には、夜を溶かしたような漆黒の髪に、真紅の瞳を持った美女が座っていた。
名前はライラ。
モモをサカヅキの船から救い出してくれた、あの女性だ。
「無事に逃げられたんだ、良かったじゃない。」
「ええ、あなたのおかげで…。本当にありがとう!」
あの時は、とてもお礼が言える状況じゃなかったけれど、今は違う。
改めて深々と頭を下げた。
そのやり取りを見ていたローが、「どういうことだ?」と視線で聞いてくる。
「ほら、海軍の船で助けてくれた人がいたって言ったじゃない? それが、彼女なの。」
事の顛末は、再会した時に話していた。
しかし、ローはその人物が、ライラのような若い女だとは思っていなかったようで、胡散臭さそうに彼女を眺める。
「……この女が?」
「なによ、なにかご不満? 5億の賞金首も、案外見る目がないのね。」
ふん…と鼻を鳴らすライラは、ローの正体を知りながら、臆する様子もない。
モモを逃がしたことといい、やはりただ者ではなかった。