第49章 休息
「これが、俺たちの知るセイレーンのすべてだ。」
店の男が語ったことは、すべて過去の話。
モモの力を取り戻す手助けにはならない。
それでも、聞けて良かったと心から思う。
「ありがとう…、ございます……。」
涙を止められずにいると、男が静かに立ち上がる。
「落ち着くまで、この部屋にいるといい。先ほども話したとおり、この件に関しての情報料はいらない。他の情報が必要なら、また声を掛けてくれ。」
男が出て行くのを見送ったあと、ローがモモを抱き寄せた。
「モモ、どうしてほしい?」
「……?」
そっと耳もとで囁かれ、涙を零したまま見上げた。
「政府の連中を、皆殺しにしてやろうか。」
それが冗談でないことは、すぐにわかった。
本気で、モモのために怒っている。
ここで頷いてみれば、彼はすぐにでも、マリージョアに乗り込むのだろう。
そんな彼を見つめていると、眦からまたひと雫、涙が伝った。
「……ありがとう。」
モモの過去を誰より真剣に捉え、自分以上に怒りを感じてくれている。
そんな人を見つけられたこと、なにより幸せに思う。
「でも、わたしの仲間は、たぶんそれを望んでいないと思うの。」
母以外のセイレーンを知らない。
けれどきっと、優しく穏やかな人々だったと信じている。
それなら、仇を討つより、モモの幸せを願ってくれるはず。
「ロー…、これからもわたしと、一緒にいてくれる?」
「なにを当たり前なことを。」
その当たり前なことが、どれだけ奇跡的なことか、モモはもう知っている。
どんなに時間が掛かっても、いつかこの世界に、再びセイレーンを誕生させよう。
その相手は、ローでなくては嫌だ。
「言われるまでもない。頼まれたって、お前を手離さねェよ。」
ローの唇が目もとに触れ、それから唇に落ちる。
誓いのキスは、涙の味がした。