第49章 休息
能力こそ受け継がれないが、男いえども、セイレーンの血は確実に流れている。
例えば、一族の男が子供を作り、生まれたのが女児だった場合には、その子供はセイレーンとなる。
しかし、政府は多くのセイレーンを前に、そこまで深く考えなかったため、あのような悲劇が起きたのだ。
「それで…、残されたセイレーンはどうなったんですか? 政府に…捕まってしまったんでしょうか。」
守り手がいなくなれば、セイレーンたちに逃げ場はない。
圧倒的な力を持つ海軍を前に、手も足も出ないだろう。
そう予想したモモに、店の男は静かに問い返した。
「本当にそう思うか?」
「……え?」
「目の前で大切な仲間を殺されたセイレーンたちが、大人しく捕まったと…本当にそう思うか?」
閉鎖された島国。
殺された男たちは、彼女たちの仲間であり、家族であり、恋人だったはず。
そんな大切な人を目の前で殺されたら、どうなるのだろうか。
モモの両親も、海賊に命を奪われた。
しかし、あの頃はまだ幼すぎて、ただ悲しみと恐怖に怯えていただけ。
もし…、もしも、目の前でローとコハク、そして愛する仲間たちが殺されたとしたら、自分はいったいどうなるんだろう。
そんなこと、想像もできなかった。
「どう…なったんですか、セイレーンたちは。」
結局 答えが出せずに、真実を尋ねた。
「セイレーンたちは……、海軍の連中を殺した。」
「え……ッ!?」
想定外の答えに、耳を疑った。
セイレーンが、海兵たちを殺した…?
そんなこと、あり得るのだろうか。
政府が派遣させたのは、実力ある当時の精鋭たち。
一族の男たちにだって、命を落としたほどなのに、残された彼女たちが、いったいどうやって戦ったというのだ。
いや、ひとつしかない。
彼女たちが持つ力、それは……。
「セイレーンたちは、歌で敵を滅ぼした。」
ああ、そうか。
怒り、悲しみ、そして憎しみ。
彼女たちは口にしたのだ。
滅びの歌を。