第49章 休息
奇跡の歌声を持ったセイレーンという一族は、新世界のとある小さな島国で幸せに暮らしていた。
歌を唄い、自然を育み。
彼らの生活は平和そのものであった。
世界政府という存在がなければ、きっと、今でも……。
「政府が君たちの存在を知ったのは、40年ほど前のことだ。」
その稀なる力に目を付けた政府は、セイレーン狩りを決行し、命令を受けた当時の海軍幹部たちは秘密裏に彼らの島へ押し入った。
「どれほど強大な能力を身に宿していても、それが戦いに活かされるとは限らない。…それは、君が1番よくわかっているとは思うが。」
彼の言うとおりだ。
奇跡の歌声を持つモモだが、その力は本当に奇跡を起こせるわけではない。
死者は蘇らないし、永遠の命も授けられない。
そして、敵から身を守れもしない。
戦争を知らぬセイレーンたちは、すぐに劣勢になった。
「女たちを守ろうと、男たちは果敢に闘ったが、当時の政府はセイレーンの特徴を持たぬ男たちに、価値を見いだしてはいなかった。」
セイレーンの力は、女にのみ受け継がれる。
コハクがそうであるように、セイレーンの血を引く男は、能力も、金緑色の瞳も、なにも得られない。
端から見れば、彼らはただの人間にしか思えなかっただろう。
「だから、政府は躊躇なく男たちを殺した。」
「──ッ」
すべては過去の話。
それがわかっているのに、モモの心が張り裂けそうに痛む。
「政府の連中がやりそうな…最悪の手口だ。モモ、あとは俺が聞いておいてもいいが。」
激しく動揺するモモを、ローが気遣う。
「……大丈夫。最後まで…聞きたいの。」
痛ましい過去は、モモの仲間たちのこと。
自分が聞かずして、どうする。
そういうローだって、この話を聞いて故郷のことを思い出しているんじゃないのか。
辛い思いをしながら、モモの傍にいてくれる。
それだけで、十分すぎる。