第49章 休息
「なぜ、コイツの名前を知っている。」
「……奥へ案内する。」
男はローの質問に答えず、店の奥の部屋へ来るように促した。
「モモ、行くぞ。」
もしかしたら罠である危険もあるが、ここにモモを置いていく方が危ない。
ローはモモの手を引き、立ち上がった。
大丈夫、この商船をめちゃくちゃにして、敵が山ほど増えようとも、モモのことは守ってみせる。
店の奥の部屋は、特別な客のための部屋…いわゆるVIPルームであった。
酒場とは程遠い、高級感溢れる内装に、居心地の悪さを感じる。
「で、こんなところへ連れてきた理由は?」
まず口を開いたのは、ローだった。
しかし、そんなローに対して、店の男は軽く両手を上げながら笑う。
「そう警戒するな。お前たちのことは、会長から聞いている。」
「会長?」
「メルディア、と言えばわかるか?」
メルディアって、メルのこと……!?
モモの親友である彼女が、この商船というシステムを作ったということは聞いていた。
けれど、まさか会長なんて仰々しい役職に就いていたことを、初めて知った。
そんなモモの胸中を察したのか、男がメルディアの立ち位置を説明してくれる。
「会長といっても、名誉職のようなものだ。彼女は我々、ツークフォーゲルの創設者だからな。」
ツークフォーゲル。
どこかの国の言葉で、渡り鳥を意味するその団体は、数多の商店の結集体。
いわば、商店連合会である。
その発案、創設者であるメルディアは、行動を称えられて会長の肩書きを持っているが、実際は彼女の一言でツークフォーゲルが動く…というわけではないらしい。
「もちろん、影響力はある。しかし、多大な権力は身を滅ぼすということを、我々は知っているからね。」
権力を分散させることにより、均衡を保つ。
そのあり方は、小さな国のようであった。
「前置きが長くなったが、ツークフォーゲルには守らねばならないルールがある。そのひとつは、どこの誰であっても“セイレーン”の情報を売らぬこと。」
政府関係者はもちろん、海賊、冒険家、莫大な金を有した貴族であっても。