第49章 休息
ひとまず唄うことを諦め、朝の水分を欲しがる苗木たちにジョウロで水を与えていると、温室のドアがバンと乱暴に開いた。
「ロー…、びっくりした。どうしたの?」
見ると、おそらく起きたてであろうローが、ジーパンとパーカーを引っ掛けただけの姿で立っていた。
毎度のことだが、服はちゃんと着てほしい。
「どうした…はこっちのセリフだ。勝手に起きやがって。おかげで目が覚めちまった。」
そう言われても、起きるくらいでいちいち許可をとっていたら、生活が成り立たない。
あいかわらず、どうしようもない人だ。
苦笑しながらジョウロの水をやりきると、ローが温室の中に入ってきた。
「力を試していたのか?」
「うん…、でも、やっぱり戻ってないみたい。」
歌が唄えないわけじゃないのに、セイレーンの力だけが発動しない。
原因には心当たりがあっても、治し方がわからなかった。
「お前のような人間は、本当にいないのか?」
「わたしが知るセイレーンは、お母さんだけだったから……。」
その母は、もういない。
モモが知っていることといえば、歌を唄うことくらいだ。
「同じセイレーンや、わたしたちに詳しい人がいたら良かったのにね。」
それはほとんど願望のようなものだったけど、その呟きを聞いたローは「待てよ…?」と顎に手を当て、考え込む仕草をした。
「なぁに、どうしたの?」
「……イヤ、その手があったかと思ってな。」
「その手?」
きょとりと首を傾げるモモに、ローは「ここはどこだと思う」と質問してきた。
「ここって…、温室?」
「バカ、違う。ここは商船だ。あらゆるもんが手に入る、でけェ市場。当然、商品の中には“情報”もあるだろうよ。」
そこまで聞いて、ようやく理解した。
「じゃあ、セイレーンの情報も……!?」
「あるとは言えねェが、可能性はゼロじゃない。」
ゼロじゃないなら、試してみる価値がある。