第49章 休息
「───ッ」
目を覚まし、身体を起こした。
いつの間に眠ってしまったのだろう。
頭が少し痛み、こめかみを揉む。
(夢を見ていた気がするが……。)
覚醒した今、それがいったいどんな夢であったか、思い出せない。
夢というのは、そういうものだ。
「……モモ?」
ふと気がつくと、隣で寝ていたモモがいない。
時計を見ると、モモの起床時間を過ぎている。
昨夜、あれだけ濃厚に抱いたというのに、彼女の生活リズムは変わらないらしい。
それを少し可愛げがないと感じながら、ローは傍らに落ちているパーカーを適当に羽織った。
もちろん、行方知れずのモモを探しにいくために。
毎朝の日課兼仕事である、温室畑の世話に勤しんでいたモモは、深くため息を吐いた。
「やっぱり、戻らない……。」
セイレーンの力が消えてから、こうして毎朝 歌を唄っているのだが、植物たちはなんの反応もしないのだ。
得意としていたはずの慈しみの歌。
植物たちを育て、元気にさせるその歌は、モモにとって生活の一部だった。
念のため、自分が唄える歌をすべて試してみたが、結果は変わらなかった。
唯一、滅びの歌だけを除いて……。
(やっぱり、あれの影響なのかな。)
キラーたち、病に苦しむ人を救うため、禁忌とされていた滅びの歌を唄ったことは、未だ記憶に新しい。
あの時に味わった、喉が灼けるような痛みは、今まで感じたことのないものだった。
痛みこそ、今ではすっかり消え失せたものの、セイレーンの力だけが戻らない。
ローを含め、仲間たちはモモに特殊な力がなくとも、少しも気にしないと言ってくれた。
嬉しかった、すごく。
でも……。
(やっぱりわたしは、力を取り戻さないと。)
不便だからとか、無力になるとか、そんな理由じゃない。
セイレーンの力は、モモの身体の一部で、そして友達だった。
生まれた時から傍にいて、どんな時も、その力だけがモモを理解し、モモのために働いてくれた。
能力をそんなふうに捉えるだなんて、自分は少しおかしいのかもしれない。
でも、モモはその友達を、なにがなんでも取り戻したかった。