第49章 休息
薬剤師の仕事を得て、恩返しを始めたモモが、初めてローを意識したのは、たぶん あの時だ。
「お風呂をね、覗かれたのよ。」
「風呂を?」
「そう。覗かれたっていうか、事故みたいなものなんだけど。」
身体の不潔さが気になって、ベポに頼んでバスルームを借りたところ、それを知らずにローがやってきただけ。
単なる事故だけど、モモにとっては初めて異性に裸を見られた忘れられない出来事。
「それでね、妙に意識しちゃったわたしに対して、あの人は言ったの。」
ガキの身体に興味はない…と。
ガキ。
当時10代だったモモは、彼から見たらさぞかし子供だったことだろう。
妖艶な女海賊や、夜の踊り子を見慣れているのなら、なおさら。
当たり前のこと。
モモだって、自分の身体に自信なんか、これっぽっちもなかった。
でも、だけど……。
「そう言われたのが、すごく悔しかった。…悔しくて、悲しかった。」
この人は、わたしなんかに興味がないんだって。
それなのに、どうしたことか。
そのすぐあとのこと。
ローが急に「俺の女になれ」と言い出したのは。
「理由を聞けば、そうすれば船内で諍いが起きることなく、わたしを仲間にできるからって言うの。失礼だと思わない?」
彼はモモに恋をしたからではなく、仲間にしたいから告白してきた。
欲しいのは、モモではなくて、有能な薬剤師。
「だからわたし、絶対にあの人の思い通りになるものかって思った。」
絶対に、好きになるものかと思った。
けれど、そう思えば思うほど、惹かれていく。
惹かれたくないのに、素敵なところばかり目について。
「たぶん、手遅れだったんだと思う。強引なところも、意地悪なところも、たまに見せる優しさも、取り返しがつかないくらい好きだった。」
それが“恋”だと気づくのに、ずいぶん時間が掛かってしまったけれど。
「ごめんなさい。答えになってないね。」
どんなに記憶を探っても、好きになった瞬間がわからない。
やっぱり、当たり前のように好きだったから。