第49章 休息
「その男の気持ちなんざ、考えたくもねェが…、単純に堪忍袋の緒が切れたんだろうよ。」
「……んん?」
考えたくないと言う割には、当たり前のように言う。
けれど、モモにはその理由がいまいち理解できない。
「堪忍袋の緒が切れたって、どうしてそんなことになるの?」
モモはただ、メルディアに連れられて酒場にいただけなのに。
それを指摘すると、ローは「そこじゃねェ」と首を横に振った。
「男ってのはな、あえて確かめなくても、傍にあるもんは自分のものだと思うもんなんだよ。」
それは、人間だとて同じ話だ。
「そいつは船の頭だったんだろ? なら、なおさらだ。」
自分の船に乗っていて、触れることも許されて、そして自分は好意を抱いている。
そうなれば、気持ちを確かめ合わなくても、男は勝手に自分の恋人だと思うだろう。
「そんなの…勝手すぎない? だってそんなこと、こっちにはわからないじゃない。」
ちゃんと好きだと言って、想いを伝え合わなければ、恋人にはなれないと思う。
「だがそいつは、お前のことを自分の女のように扱ってたんだろ? そりゃ、気づかないお前が悪い。」
気づかないまま、自分たちは恋人じゃない…とか無神経なことを言ったのだろう。
「もし俺なら、我慢なんかしねェでとっとと身体に教え込む。」
「も、もしローなら…。」
それは、なによりも説得力が高い。
そうか、つまり自分は、無意識のうちにローを傷つけていたのか。
ローはとっくに、自分のことを恋人だと思って……。
でも。
でもね。
「言ってくれなきゃ、わからないもん。そもそも素直に言ってくれれば、あんなことにならなかったと思わない!?」
「……俺に言うな。」
じゃあ、誰に言えと。
「今度からは、ちゃんと言って。言いにくいことも、照れくさいことも、全部。」
「だから、俺に…──ああ、もう、わかった。」
少し乱暴な手つきで前髪をぐしゃりと撫でられ、少し泣きたくなった。
約束だよ。
わたしも言うから。
言いにくいことも、照れくさいことも、全部。
これからは、ずっと。