第49章 休息
ローに過去の“初体験”を語りながら、モモはものすごくひさしぶりにあの日のことを思い出した。
メルディアに酒を飲まされたモモは、ローによって連れ戻された。
そして次に目覚めた時にはベッドの上。
なぜだかローはひどく苛ついていた。
それを当時のモモは、自分が調子に乗ってはしゃぎすぎたせいだと思い込んでいたが、今考えてみれば、たぶん違う。
ローはそんなことでは怒らない。
ならばなぜ、ローはあの時あんな行動に出たのか。
あとでいくらでも確かめる機会はあったはずなのに、その後の事件のせいで、すっかりうやむやになってしまっていた。
今となっては、尋ねることすらできない。
(でも、ここにいるのも“ロー”だわ。)
記憶を失っても、幾年の月日が流れても、彼という存在は変わらない。
尋ねてみようか。
そんな欲求がモモの中で生まれる。
もしかしたら、あの日のローの気持ちが聞けるかもしれない。
「ねえ、ロー。その…、彼はなにを思ってそんなことをしたんだと思う?」
「……あ?」
「だって、えっと…、彼は優しい人だったのよ。それがどうして、あんなことになったのか、わたしにはわからなくて。」
結果、モモはずいぶんと遠回りをして、自分の気持ちに正直になれた。
でもそれは、今回だって変わらない。
いつだってモモは、周りに振り回されて、そして振り回してから本当の気持ちにたどり着く。
そんな迷惑なことは、今回で最後にしたい。
あの日のローの気持ちを知れれば、なにかが変わるんじゃないか。
なんとなく、そう思ったのだ。
「それは、次のお前の質問と解釈していいのか?」
「あ…、うん、じゃあ。」
互いの過去について質問する、という趣旨から離れてしまったが、ローがよしとするのなら、それを質問にさせてもらいたい。
ローとて、モモの“昔の男”の気持ちなど考えたくはないだろう。
だけど質問には答える約束だ。
ローは約束を絶対に破らない。
ふぅ…と面倒くさそうな息を漏らしながら、モモの髪を弄っていた手が今度は肩へと回る。
ローの目が一瞬、過去へ遡るように遠くなる。
肩に触れる腕が、寄り添った熱が、6年前に戻った気がして、ドクン…と鼓動が跳ねた。