第12章 デート
「本当に一緒に行かなくて良かったの、メル。」
彼らのやりとりを少し離れたところで見ていたモモは、隣にいるメルディアに尋ねた。
「ええ。彼のことは、やっぱりまだ愛しているけれど、ここでついて行ったら私はいつまでも惨めな女のままだわ。」
強くならなくてはいけない。
メルディアは、愛より夢を選んだのだから。
「それに、恋だって諦めたわけじゃない。あの人の心臓はここにあるんだから。」
メルディアは手の中のドクンドクンと脈打つ心臓を見た。
「これがある限り、私とあの人は繋がっている。」
いつか彼が取り戻しに来たときには、もっと魅力的な女になっておこう。
自分の恋は、まだこれからなのだ。
遠く、離れていくアイフリードの船を決意と共に見送った。
「オイ、メルディア。お前の絵画とやらは全部持って行けよ。」
アイフリードから取り上げた財宝の山を、顎でしゃくりながらローが言う。
「あら、優しいのね。どういう風の吹き回し?」
「別に俺は絵画なんざ、興味がねェだけだ。」
嘘ばっかり。
どうせモモのためだ。メルディアにはわかる。
モモが本気でメルディアの夢を応援しているから、ローもそれに協力したいのだ。
そうでなければ、この男が取引もなしに無償で譲り渡すはずがない。
(人って、恋でこんなに変わるのね…。)
自分が言えたことじゃないが、ローは今や、メルディアの知る男ではない。
メルディアと付き合っていたときの彼は、恋愛のような色事も、手段のひとつとしか考えられない男だったから。
そんな彼が、たったひとりの女のために、優しくあろうとしている。
彼の変化に、嬉しく思う反面、悔しくも思う。
自分じゃローを、そこまで変えることはきっと永遠に無理だった。
でも、それもそのはず。
メルディアだって、本当の意味でローを愛してはいなかったから。
(あなたとモモが、出会えて良かったわ。)
心から愛し合える相手と巡り会えて本当に良かった。
だから、あなた達を目標にしたい。
そう思えるのよ。