第2章 解かれた封印
ドォン、ドォン!
大砲が発射される音と、海兵たちのけたたましい雄叫びが聞こえる。
それをモモはどこか他人ごとのように聞いていた。
今日はつくづく運が悪い。
自分の運命は、海軍本部にて実験動物になるか、ここで船と共に沈むか、どちらにしてもそう変わらない。
(もっと勉強、したかったなぁ…。)
薬剤師として働いた数年間、とても楽しかった。
充実してたし、必要とされて嬉しかった。
いつか、自分の歌で育てた薬草を使って薬を作る。
そんな夢もあった。
(……諦めたくない。)
モモの瞳に、生きる意志が宿ったとき、船が再び大きく傾いた。
ゴォン!!
凄まじい衝撃に、大砲が直撃したのがわかった。
それと同時に、グシャッと船体が潰れるような音がした。
「……!」
大砲の衝撃で岩場にぶつけたのだろう、船底に小さな穴が開いた。
それも、牢の内側に。
すぐに大量の海水が流れ込む。
とっさに身を起こし、穴から離れた。
このまま放っておけば、いずれ浸水してしまう。
(…でも、わたしの身体なら、このくらいの穴を通り抜けられるかも。)
それは自殺行為だと思う。
こんな悪天候の夜の海に、生身で飛び込む。
それも手足の自由は利かない。
待っているのは死だけだろう。
とても正気と思えない。
(けど、ここでこうしていても溺死するだけだわ。)
船が浸水してからでは、無事に船を抜けられても海面にたどり着くのは難しい。
やるなら今でないと!
流れ込む海水が縛られた足を濡らす。
その冷たさに息をのんだ。
実験動物として生涯を終えるか、船と共に沈没するか。
この穴の向こうに、たった1%でも違う未来があるのなら──。
(諦めて、たまるもんか!)
自分の未来は、自分で決める!
意を決して、モモは自由への入口へと身を投げた。