第2章 解かれた封印
泥だらけのまま手足を縛られ、モモは船の最下層にある牢に入れられた。
まだ雷鳴も止んでいないというのに、船は出航した。
自由にならない手足のせいで、まるで蓑虫のように床に転がりながら、船の動く振動を感じていた。
これからモモには、マウスのような実験の日々が待ち受けていることだろう。
自分は歌の力と薬剤師としての腕を除けば、なんの力もない小娘だ。
ここから逃げて自由の身に、なんてとても現実的じゃない。
歌の力を警戒してか、牢には見張りの兵ひとりいない。
(…わたしの人生は、ここで終わりね。)
思えば両親を失ったあの日以来、心の底から笑ったことなどなかった。
いつも人と距離を置き、関わらないようにしてた。
もしかしたらモモの人生は12年前のあの日、すでに終わってしまっていたのかもしれない。
「………。」
言い表せない恐怖と不安がモモを襲った。
モモは猫のように身を丸くし、冷たい牢で涙を流した。
(お母さん、お父さん…。ごめんなさい。)
弱くてごめんなさい。
幸せになれなくてごめんなさい。
泣き疲れて、眠ってしまおうかと思ったそのとき、衝撃が訪れた。
ドンッ
船が大きく揺れた。
モモは身体を壁に打ちつけ、痛さのあまり顔をしかめた。
(…ッ、…なに?)
牢からでもわかる程、船内が騒がしくなる。
「敵襲!敵襲ー! 前方にハートの海賊団だ!!」
(ハートの海賊団…。)
聞いたことがある。
確か、『死の外科医』と呼ばれる医者が率いる海賊団だ。
なぜ医者が海賊を…?と手配書を見て思ったのを覚えている。
この船は、まさにその海賊団から襲撃を受けているようだった。