第49章 休息
暗い空気にしてしまったことを申し訳なく思ったのか、ローはモモが本当に知らない話もいくつかしてくれた。
昔から本バカ、医者バカだったローは、学校に解剖用のカエルを持って行って、教師であるシスターを仰天させたこと。
両親は国1番の名医で、仕事で忙しい時は、寂しがる妹の世話をし、面倒だと思う一方、甘えられるのがそれなりに嬉しかったこと。
今は亡き家族の話をするローの表情は、とても穏やかで、モモの心もほっこりと温まる。
ひと通り話し終えたところで、今度はローの聞く番となった。
「お前がコハクの父親と出会ったキッカケはなんだ。」
(…いきなりそれかぁ。)
モモは内心、大きなため息を吐く。
もっと子供の頃の話とか、故郷の話とか、モモが素直に話せる内容なら良かったのに。
けれど、父親は誰だと聞かれているわけじゃない。
そこらへんはローの配慮だろう。
もう、あの記憶はないのだ。
正直に話しても、そうそう見抜けやしない。
「助けられたのよ、海軍の船から。…たまたまだったんだけどね。」
出会いは本当に偶然だった。
ローは海軍の船にモモがいると知らなかったし、モモはまさか拾われると思っていなかった。
拾ってもらった理由だって、一目惚れとかそんな艶めいたものじゃなく、単なるベポの慈悲。
「助けてもらったあと、船に置いてもらえたのは、わたしに利用価値があったから。…よく考えればヒドい話よね。」
ローが目を付けたのは、セイレーンの力ではなく、薬剤師としての力量。
けれど、男ばかりの船にモモを乗せるわけにはいかず、とった方法はまさかの「俺の女になれ」だ。
その強引さは、今も変わってはいないけど。
少し濁して話したが、経緯としては正直なものだ。
「いけ好かない野郎だな…。」
ぽつりと零した感想に、ツッコミたくてしかたがない。
あなたの話よ、あなたの!