第49章 休息
食器を片付け、2人はリビングからローの部屋へと移動した。
海賊船が変わろうとも、ローの部屋はいつも変わらない。
壁一面の本棚と、僅かな消毒液の匂い。
デスクは少し乱雑しているわりに、ベッドには乱れがなく、使用感がない。
今朝は珍しくベッドで寝ていたが、普段はデスクで夜を明かすことの方が多いからだ。
船を乗り換えて部屋の広さは変わったけれど、雰囲気は昔のまま。
そのことが、どこかモモを落ち着かない気持ちにさせた。
(バカね、なにを今さら……。)
ローの部屋には、何度も入っている。
仕事であったり、たいした用もなく呼びつけられたり。
それを今さら、なにを緊張することがあるのか。
部屋の中心にある、革張りのソファーへ腰を下ろした。
すると当然のように、隣にローが腰を下ろす。
「で? なにを話す。」
自分の話など心底どうでもいいと思っていそうな聞き方が、なんだか憎たらしい。
だからモモも、遠慮なく聞きたいことを聞くことにする。
「じゃあ、ローの子供の頃の話を教えて。」
本当はドフラミンゴの話を聞きたかったが、そのためには珀鉛病やコラソンのことを知っていなくてはならない。
「ガキの頃の話…か。何度も言うが、おもしろくもなんともねェぞ。」
「うん、いいわ。」
暗い話とわかっていながら尋ねる自分は、もしかしなくても嫌な女だ。
だけどモモは、過去の自分よりローを知っていたい。
「白い町…フレバンスを知っているか?」
「……ええ。」
「俺はあの町の、唯一の生き残りだ。」
政府によってもたらされた病、政府によって消された町。
家族も友達も、なにもかもを失った。
痛ましすぎる話に、モモは無意識のうちに唇を噛む。
その唇にローがそっと触れ、噛むのを止めさせる。
「言っただろ、おもしろくねェって。」
「……うん。」
そもそも、順風満帆で幸せいっぱいな人間なら、最初から海賊になったりしない。
大切なものが陸にあればあるほど、海に旅立つ足枷になる。
「湿っぽい話になっちまったが、俺は恵まれたガキだった。優しい両親に可愛い妹もいて…俺自身は生意気なガキだったがな。そういや、コハクに少し似てた。」
「そ…ッ、そうなんだ…。」
心臓に悪い発言に、悲しい気持ちが引っ込んだ。