第49章 休息
ローの手のひらに力がこもり、モモは感傷に浸っている場合ではないことを思い出した。
恋人のことを知りたいと思うのは自然なことだが、こればかりはどうにもならない。
「昔のことは話せない。その代わり、今のわたしのことなら、なんでも話すから。」
ローと向き合うことを決めて、モモは変われたと思う。
少なくとも、自分で自分を許せなかった頃よりずっと。
今ならば、ローのことをどれだけ好きかを伝えられる。
口にするのは恥ずかしいことだけど。
けれど、ローはそれだけでは満足できないと首を横に振る。
「お前の今と未来は、俺のものだ。だが、それだけじゃ足りない。俺は、お前という人間がどう生きてきたのかを知りてェ。」
「……。」
困った。
モモがどう生きてきたのかなんて、消えた記憶を隠しながら語れるものじゃない。
そもそも、どうしてそんなに過去にこだわるのか。
「ローって、人の過去には興味がなかったんじゃないの?」
大切なのは今であり、未来。
仲間にどれほど重い過去や経歴があっても、気にしないのがローであったはず。
実際、ローは今も昔も、モモの過去についてそれほど尋ねたりしなかった。
そのせいで、おかしな誤解が生まれることもあったけど。
モモの指摘に、ローはぐっと押し黙る。
彼女の言うとおり、自分は人の過去にこだわらないタチだった。
けれど、モモのことだけは特別。
これまでモモの過去に興味がなかったわけじゃない。
コハクの父親や、所属していた海賊団が気になって、強引に聞き出そうとしたこともある。
だけど彼女が口を開きたがらない以上、自分も踏み入らないようにしていた。
これまでは。
しかし、今やモモは名実ともに自分のもの。
するとどうだろう、欲はどんどん膨らむばかり。
最初は、傍にいてくれさえすればいいと思った。
だけど傍にいたら、心が欲しくなった。
そして心を奪えば、過去も未来も、すべて手に入れたくなった。
贅沢者と言われるなら、それでもいい。
欲しいものはすべて奪う。
それが海賊というものだ。