第49章 休息
「終わってないって…、わたしはもう 話すことはないよ。」
不機嫌そうに唇を尖らせた。
そうでもしないと、この焦りが伝わってしまいそう。
「俺にはある。」
予想外に食い下がるローに、モモは困惑した。
「前々から思っていたことだが、お前…昔のことになると、やけに話したがらないな。」
当たり前じゃないか。
モモの過去など、話せるはずもない。
「あまり思い出したくないの。」
嘘。
今でも時折、思い出しては夢に見る。
「そうか…。だが俺は、お前のことをもっと知りたい。」
「……。」
それは無理なことだ。
ローに話せることなど、ひとつもない。
時折見る夢は、とても都合がいい。
ある日突然、ローが昔のことを思い出して、それで自分は本当の意味で許される。
愚かしい夢。
そんなこと、現実にありはしない。
例えば、今ここで真実を明かしたらどうなるだろうか。
……どうにもなりはしない。
ローには昔の記憶はなくて、許そうにも許せないからだ。
モモを許してくれるあの人は、もうこの世界にいない。
だから、幸せになろうと決めた今でも、過去を話すことはできないし、そのつもりもない。
だからモモは、何度でも誤魔化して、嘘も吐く。
「話したくないことのひとつやふたつ、ローにだってあるでしょう? それを無理に聞くのは、よくないことだと思うわ。」
ローだって、モモに話していないことがたくさんあるはずだ。
白い町、恩人の死の理由、果たした復讐。
どれもみな、過去のモモが聞いたこと。
今の自分が、知るはずのないこと。
心の奥底に触れるような秘密を、今の自分は聞いていない。
それはつまり、今のモモは過去の自分に負けているのだ。
(もっと知りたいだなんて…、それはわたしのセリフだわ。)
空白の6年間。
ローがどんな想いで政府に身を売り、どんな想いで復讐を遂げたのか、モモはなにも知らない。
けれど、今のモモにはそれを尋ねる術がない。
だってわたしは、なにも“知らない”んだから。