第49章 休息
ウォーターセブンには一度行ったことがあるけれど、あの街の名産品に塩があったとは初耳だ。
そもそも、いくら質の良い塩だからって、そこまで料理の味に影響を与えるものだろうか。
不思議な顔をしていると、ローが舐めてみろと言ってきたので、その通りにする。
「……!」
舌に広がった味に驚いた。
ただの塩だというのに、なんという旨み。
「これ…、本当に塩?」
なにか特別な調味料なのでは疑うほど、モモが知る塩とは違っていた。
「言っただろ、普通の塩じゃない。アクア・ラグナによって生まれる唯一の塩だ。」
「アクア・ラグナ?」
「ウォーターセブンで年に一度起きる高潮のことだ。街がまるごと浸かるほど、でけェ規模のな。」
街がまるごとって、あの大きな街が?
それはいったい、どれほど凄まじい高潮なのか。
ウォーターセブンの名物とも言える高潮が運んでくる塩は、どこの海で穫れる塩とも違い、ミネラルやいろいろな旨みを含んだ特別な塩。
一般的に出回ることのない稀少な塩だが、あらゆる商品を取り扱う商船ならば、手に入る。
少しズルくはあるが、ローはサンジに対抗するために、この塩を頼った。
「残りはお前が使え。俺の付け焼き刃のメシより、100倍ウマいもんが作れるはずだ。」
「いいの?」
今の話を聞いて、モモは自分の料理にも使ってみたくなっていた。
この塩を使えば、先ほどの自分のように、みんなを驚かせることができるかもしれない。
「でも、そんな塩をよく知っていたわね。」
料理ができるとは言っても、ローにそこまで知識があるとは思わなかった。
「ああ…、これはガレーラっていう造船所の社長が話していたことだ。興味があったわけじゃねェが、試しに手に入れたことがある。」
料理に使ってみたら、出来映えが激変したことから、ローはしばらく愛用していた。
「へぇ…、アイスバーグさんが…。」
彼はウォーターセブンの市長だから、いろんなことを知っているのだろう。
なんとはなしに相づちを打てば、ローが訝しげに眉を寄せた。
「お前、アイスバーグのことを知っているのか。」
ローは一度たりとも、彼の名を出してはいない。
「え…? あ……。」
しまった。