第49章 休息
夢中で食べていたら、気がつけば大皿のほとんどを食べてしまい、お腹がパンパンになった。
モモを太らせようという作戦は、肉を何キロも食べさせるより、よほど成功だと言える。
「ごちそうさま。ああ…、本当に美味しかった。」
「そりゃ、よかったな。」
素っ気ない態度をとるのは、たぶん照れているからだ。
「ローがこんなに料理上手なんて知らなかったわ。わたしの料理が恥ずかしくなるくらい。」
それなりに料理の腕はいいと自負していただけに、なんとなく恥ずかしい。
「安心しろ。料理の腕なら、お前の方が100倍上だ。」
「そんなことないわ。ローの料理の方がずっと美味しかった。」
これは本当。
好きな人が作ったからというポイントを抑えても、あの旨みと奥深さはモモには出せない。
しかし、モモが熱く感想を述べていると、ローは降参したように肩を竦めて秘密を明かした。
「メシが美味かったのは、俺の腕じゃない。材料が良かったからだ。」
「材料? 特に珍しいものはなかったけど…。」
新鮮な野菜や海産物。
どれも最高に美味しいが、そんなものは普段モモだって使っている。
「わからないかもしれねェが、商船でなきゃ手に入らねェものがあるんだよ。」
「そういえば、なにか買っていたよね。なにを買ったの?」
「……これだ。」
そう言って、ローは棚からなにかが詰まった紙袋を取り出した。
わくわくと覗いてみると、そこに入っていたのは意外な調味料。
「これ…、塩?」
真っ白でサラサラしたそれは、珍しい調味料でもスパイスでもなく、ただの塩。
「これが、美味しさの秘密?」
「ああ、これは特別な塩なんだよ。」
この塩がなければ、とてもサンジの料理になど対抗できなかった。
「これは、ウォーターセブンという街でしか穫れない塩だ。」
「ウォーターセブン…。」
ふいに、モモの脳裏に美しい水の都が蘇ってきた。
ゴンドラで進む水路、大きな造船所。
あの懐かしい風景が。