第49章 休息
コハクたちが出かけてしまえば、船にはモモとローの2人きり。
明日の朝まではここで待機しなければならないが、ペンギンと違って、モモにとってはそれが少しも苦ではない。
「じゃあ、わたしは薬の解析をするから、なにかあったら声を掛けてね。」
モモの頭の中は、購入した薬のことでいっぱいだ。
早く解析したくてしょうがない。
「ああ。」
しかし珍しくも、仕事の虫と化したモモに、ローはなんの不満も漏らさない。
いつもなら、モモが部屋に籠もることに機嫌を悪くするはずなのに。
首を傾げつつも、これ幸いとモモは薬片手にいそいそと自室に向かった。
「なるほど…、こういう配合になっているのね。」
薬の成分を解析したモモは、その配合に感嘆のため息を吐いた。
そもそも惚れ薬なんてモモには必要のないものだが、それはモモでは思いつかない配合だった。
「幻覚剤をこんなふうに使うんだ。」
惚れ薬の正体が幻覚剤だというのは、乙女としては少し世知辛い気持ちになるが、薬剤師としては納得せざるを得ない。
主な成分は幻覚剤と催淫剤。
配合こそ素晴らしいが、恐ろしい薬だ。
「効果は期待できそうだけど、服用し続けなくちゃ意味がないのね。」
効果が続いている時はいいけれど、薬の作用が切れてしまえば、すべてが元通り。
夢を見続けるには薬を飲ませ続けなければならないが、ひと瓶で効果は3日ほど。
3日で100万ベリーもするのだから、ほとんど思い出作りのような薬だ。
それでも、その思い出作りのために大金を叩き、薬に頼る人が世界にはたくさんいるのだろう。
飲まされる側からしたら、堪ったものではないが。
「これ、どうしよう。」
解析が終わった薬は、まだ半分ほど残っている。
もう必要がなくなってしまったが、値段にすると50万ベリーもするのだから、迂闊に処分できない。
むむ…と悩んでいる時、見計らったようにドアがノックされ、ローが声を掛けてきた。