第49章 休息
船に戻ると、置いてきぼりだったペンギンが、まるでお留守番中の犬のように出迎えてくれた。
「おかえり! おかえり! 早かったッスねぇ!」
「ただいま、ペンギン。だって、約束したでしょう?」
船番を交代してあげれば、彼はようやく商船を楽しむことができる。
楽しいことを目の前に、さぞかし辛かっただろう。
「え…、俺のために? じゃあ、本当はもっと見たかったんじゃないッスか?」
優しいペンギンは、モモが我慢をしているんじゃないと心配して、しゅんとうなだれた。
「そんなことないよ。すごく満喫してきたから、もう十分なの。ほら、見て! たくさん買い物してきたでしょう?」
獲得した戦利品を見せびらかすと、ペンギンは興味深げに覗いてくる。
「わぁ…って、全部仕事で使うモンばっか。これ、薬ッスか?」
「あ、それは惚れ薬。」
「惚れ薬!?」
飾り気のない瓶に入ったソレは、とても惚れ薬には見えないだろう。
たぶん、値段を教えたらもっと驚くと思うけど、うっかり落とされては堪らないので黙っておく。
「誰か惚れさせたい相手でもいるんスか?」
「まさか。研究の一環として買ったの。」
誰かに使おうとは考えてもいない。
「えー、もったいない。なんなら、俺が実験台になろうか。」
「実験台って…、誰に惚れる気なの。」
「そりゃァ、もちろん──」
ペンギンがなぜか照れ照れとし始めた瞬間、バシリと後頭部が叩かれた。
「いてッ!」
「……バカ言ってねェで、さっさと行ってこい。」
なにも叩くことないのに。
ローは時々乱暴だ。
けど、拗ねたように唇を尖らせるペンギンには、あまり効いていなさそうだ。
「ちぇー。じゃあ、勝負場にでも行って、ひと稼ぎしてくるかな。」
「勝負場?」
聞き覚えのない単語に、コハクが反応する。
「勝負事をして勝ったら、賞金がもらえる遊戯場のことッス。」
「カジノみたいな?」
「いやいや、そんな洒落たモンじゃなくて。腕相撲とか、ちょっとした殴り合いとか、闘技場崩れなヤツ。」
殴り合いで賞金…。
闘技場を知らないモモは、説明を聞くだけでぞっとする。
世の中には、いろんな方法でお金を稼ぐ人たちがいるものだ。