第49章 休息
使う予定のない高価な薬を手に入れたあと、モモは薬草を、コハクは本と砥石を買い求め、ローはいくつかの食材を購入していた。
「お前ら、他に欲しいものは?」
「わたしは、もうないわ。」
「オレも。」
商船すべてを見て回ったわけではないが、もともとモモもコハクも物欲が少ない。
こう店が多くては、目移りしすぎて逆に困る。
とはいえ、軽食に海ブタのケバブサンドを食べたあと、水水ソフトクリームまで買ってもらったのだが。
しかも、2つも。
おかげでモモは、すでに商船を満喫した気になっている。
「そろそろ船に帰らない? あんまり遅くなると、ペンギンが可哀想だし…。」
今頃、さぞかし侘しい思いをしながら船番をしていることだろう。
「俺は構わねェが…、本当にいいのか。」
ローは何度も訪れているが、モモやコハクは初めてなのに、こんなに短時間で済ませていいのか。
どうせ、他の仲間たちは朝まで帰ってこないというのに。
「うん、ペンギンと早めに戻るって約束したし、わたしはもう十分。」
「……欲のねェ女だ。」
無欲は美徳だが、モモを喜ばせたいローにとっては少し困る。
彼女の欲しがるものといえば、薬草やら医学書やら、色気のないものばかりだから。
柄ではないことは重々承知しているが、たまには気の利いたものを贈りたい。
例えば、モモがいつまでも大切にしている指輪のように。
「……。」
そういえば、そのエメラルドの指輪は、ローが預かったままだ。
以前のように首から下げてこそいないが、今もパーカーの内ポケットに入っている。
あの時、島で見た奇妙な幻覚も、結局わからず仕舞い。
「モモ…──」
内ポケットに手を入れつつ振り向くと、彼女の姿がない。
内心ぎょっと焦るが、少し先の方から呼ぶ声がある。
「ロー、早くッ! 帰ろう!」
ほんのちょっと目を離した隙に、勝手な行動をとるあの女は、本当に“危機感”というものが備わっているのだろうか。
誰だ、傍から離れないと言ったヤツは。
(やはり、首輪をつけておくべきか。)
そんな物騒なことを思いつつ、呑気に笑顔を向けるモモのもとへ向かった。