第49章 休息
呼び込みの男が掲げる薬瓶の外見は、本当に惚れ薬なのかと疑うほど素っ気ない。
「よし、買おう。」
「……えッ!」
まさか本当に買うと思わなかったのだろう、コハクが本気で驚いている。
「本気かよ、惚れ薬だぞ?」
「もちろん本気よ。今しか買えないかもしれないじゃない。」
遠い海の小さな国。
モモが知る、厳しく優しい魔女の薬など、今を逃せば手に入らない。
いくらだろうか。
こつこつ貯めたお小遣いで足りるかな。
小さな財布を開いて中身を確認していると、上から超絶不機嫌な声が降ってきた。
「……で? それをどうするつもりだ。」
きょとりと見上げれば、声色にふさわしく、怒りを隠そうともしないローがいる。
不機嫌すぎて黒いオーラが滲み、通行人が息をのんで逃げていく。
しかし、モモにはその理由がさっぱりわからない。
「どうするって…、成分を解析するに決まってるじゃない。」
効能はどうあれ、新薬には非常に興味がある。
自分じゃ思いつかないような配合かもしれないし、良質な新薬はモモにとって宝にも等しい。
「つまり…、誰かに使うわけじゃねェってことか?」
「え、当たり前でしょう?」
使うって、惚れ薬として?
それこそ、いったい誰に使うというのだ。
「なぁに、ロー、使ってみたいの?」
意外だ。
ローがこんな薬を頼るなんて。
いや、そもそも誰に使う気だ。
半眼になって睨むと、びしりと額にデコピンが飛んだ。
「……いったッ」
打たれた額を押さえて、涙目になる。
ひどい、なんてことするんだ。
ムッとして非難しようとしたが、隣でコハクがため息を吐く。
「今のは、母さんが悪い。」
「な、なんで…ッ」
モモはただ、薬剤師として当然な行為をしようとしているだけなのに。
「そんなんだから、いつも遠回りするんだよ。」
ローのヤキモチに気がつかないなんて、鈍すぎる。
けど、しかたないか。
たぶんモモは、ニブニブの実を食べたに違いない。