第49章 休息
1時間ほどすると、目的の商船が目で確認できるほど近づいてきた。
「あれが、商船…?」
その外見に、目を剥いた。
だいたいの説明はローから聞いていたけれど、実際目にしてみると、すごいの一言に尽きる。
何隻もの船が連結した船上には、ところ狭しと店が並び、まだ商品こそわからないけど、ものすごい品物の数だ。
そして、どういう原理かはわからないが、船の上部では屋根を作るように布が張られ、まるでドームのようになっている。
これはもはや、船ではない。
海に浮かぶ巨大市場。
船着き場には、すでにたくさんの船が停泊していて、中には海賊旗を掲げる船もある。
「商船内では争いごとの類はご法度だが、お前は俺の傍から離れるなよ。」
「わかってるわ。」
モモの価値を知る者なら、二度と商船を利用できなくなったとしても、モモを選ぶ可能性は十分にある。
そうでなくても、モモはトラブルメーカーと称しても過言ではないのだから。
「あの人混みの中で、迷子探しはごめんだからな。」
「わかってるってば…!」
迷子にならないと断言できないところが辛い。
船着き場に到着すると、ローの心配は当然なものだと実感した。
だって、活気が…活気がすごい。
今まで行ったどの街よりも賑わっているし、人口量も凄まじい。
一部が商業エリアな街と違って、まるっと全体が商業施設の商船では、比べること自体が間違いだ。
やってくる船だって、何十何百ものクルーを乗せているわけだから、自然と密度が高くなる。
船着き場にさえ、喧騒が聞こえてくるくらいだ。
自然と怖じ気づくモモの背に、ローの手のひらが触れる。
「心配しなくとも、お前から目を離したりしねェよ。」
モモがいなくなった数日間を、忘れられるはずがない。
あの喪失感と恐怖を味わうくらいなら、例えどれだけ過保護だと言われようとも、一時も目を離さない。
「なんなら、首輪でもつけておくか?」
「……いや。」
「ワガママな女め。」
首輪はもちろん付けないけど、その代わりにローの大きな手が、モモの手を温かく包んだ。
離れることが、ないように。