第49章 休息
無骨な指先が、ふっくらとした唇に食まれる。
口の中に含まれた指先からは、モモの熱が直に伝わり、あろうことか小さな舌ができたばかりの傷口を這った。
一瞬、その感触がモモの胎内を連想させて、腰のあたりに震えが走る。
「な…、にを……ッ」
激しく動揺したが、そんなローの様子にモモは気づかないようだ。
ちゅッと音を立てて、慌てたように唇を離す。
「あ、ごめんなさい。つい…。」
モモにとっては、他意などなく、本当に反射的な行動だったのだろう。
例えば、コハクにするように。
「不衛生だったよね。ちゃんと消毒しましょう。」
「……。」
なんの悪意もない言動に、ただただ絶句する。
この女、どうしてくれよう。
この世に無自覚という言葉こそ、恨めしいものはない。
モモは今、自分をどれだけ煽ったかなんて、これっぽっちもわかっちゃいないだろう。
もしここが自室であったなら、1秒と待たずに押し倒していた。
なんなら今すぐ連れ込みたいが、ローにはモモに食事を摂らせるという使命がある。
己の欲望よりも、モモの健康が第一だから。
それなのに、この女ときたら…。
「ね、消毒しにいこう。ローの部屋にならあるよね? たまにはわたしがやってあげる。」
悪魔か!
これがわざとだとしたら、とんでもない女だ。
口元が引きつるのを感じながら、手を引くモモを押しとどめる。
「このくらい傷、消毒するまでもねェ。」
「でも、ばい菌入っちゃうよ?」
もう入った。
傷口から毒のようななにかが入り、ローの身体を巡っている。
「……お前、覚悟してろよ?」
「え…ッ、なにが?」
モモにしてみれば、なんの脈絡もない発言だが、どす黒いもの感じとったのだろう、びくりと肩が震える。
今さら怯えたって、もう無駄だ。
「なんでもない。早く終わらせろ、メシが食いたい。」
「あ…、うん。痛くなったら、ちゃんと言ってね?」
簡単に誤魔化されたモモは、少しそわそわとしながらも、掃除を再開した。
本当に、今に見てろ。