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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第49章 休息




汚れを落とし、光沢を取り戻したシンクで、ローはいつ使用したのかもわからない食器を洗う。

足元では、モモが一心不乱に床をブラシで擦っている。

そんな彼女に視線を落とし、ローは密かに嘆息した。
こんなはずじゃ、なかったのに…と。

部下への監督不行き届きについては、反省すべきところがある。

うちのクルーは、できないわけではないのだが、ベポを筆頭にサボり癖があるのだ。

モモが仲間になって、快適すぎる空間に慣れ、ついつい手を抜いてしまったという言い訳もわからなくはない。

結局、モモがいなくて腑抜けたのは、ローだけではないということだ。

それほど、モモはこの船の要になっている。

わからなくはない。
わからなくない…のだが。

(クソ…、アイツらめ……ッ)

黙々と泡のついたスポンジで食器を洗いながら、ローは苛立ちを募らせる。

本当なら、モモに触れていたかった。
1分1秒だって惜しい。
離れていた時間を、少しでも取り戻したい。

できることなら、温もりを感じていたい。

今朝はそれが叶う絶好の機会だった。

それなのに、なぜ自分はアイツらのしでかした後始末をせねばいけないのか。

イライラとしながらグラスを拭いていたから、手元が狂った。


パキリ。

力加減を間違えて、グラスを割ってしまう。
僅かな痛みが指先に走る。

「……チッ。」

ほんの小さな切り傷ができて、眉をひそめる。

「…ロー? どうかした?」

ローの変化に目ざとく気づいたモモが顔を上げる。

「なんでもねェ。」

失態を見られたくなくて すかさず返すが、モモは立ち上がって手元を覗いた。

「あ、割っちゃったの? …やだ、傷ができてるじゃない。」

隠しそびれたことに、心の中で舌打ちする。

「手元が狂っただけだ。たいした傷でもない。」

「たいした傷って…、血が出てる。」

血が出てるといっても、水で濡れた指に少しだけ滲んでいるだけだ。
ローにとっては、傷のうちにも入らない。

心配するなと追い払おうとしたが、その手を逆にとられてしまう。

じっと指先を見つめたかと思うと、おもむろにそれを口に含む。

「な……ッ」

思わぬ行動に驚き、そのまま硬直した。



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