第49章 休息
なにから手をつけていいかわからないというのは、まさにこのことだろう。
モモは家事全般が得意な方だ。
しかし、掃除とは毎日の積み重ねによって清潔を保っていく。
決してこんな…業者レベルに汚したものを片付けるのではない。
「……うん、腕が鳴るわ。」
どうせなら、楽しもう。
そう決めたモモは、同じく途方に暮れて、右往左往しているクルーに指示を飛ばす。
「シャチ、埃が舞うから換気をして。ベポはバケツに水を汲んできて。ペンギン、通路に転がってるゴミを片付けてきて。」
これだけ人手があるのだ、船ひとつ磨き上げるくらい、どうってことない。
「じゃ、オレは風呂場掃除でもしてくる。」
タワシ片手に、コハクがヒスイと共に出て行った。
さすがは、わたしの子。
お願いしなくても動いてくれる。
まずはキッチン。
清潔な布で口元を覆い、髪を結んで戦闘態勢をとった。
「よし、やるか!」
使用済みの食器を洗うのは後回し。
滑りを帯びたシンクをどうにかしないと。
異臭を放つ水場に躊躇いなく手を突っ込み、ゴシゴシと擦る。
ぜったいにピカピカにしてみせる! と謎の闘争心を湧かせながら、何度も擦っては水を流した。
蛇口の水では勢いが足りないため、跳ね返って床が濡れるのも構わず、バケツの水を流し込む。
どうせあとで床も磨くのだ。
そうしているうちに、ベポが用意したバケツの水が底をつく。
再び汲んできてもらおうかと思ったが、デッキの方では見張り台から降りてきたジャンバールの声が聞こえる。
「ゴミは分別するものだ。」
「やいやい、ジャンバールのくせに生意気だぞ! …で、分別ってなに?」
ジャンバールは意外と家事力が高い。
微笑ましいやり取りを聞きながら、バケツの水は自分で汲んでこようと顔を上げる。
すると、背後でドンッと床が鳴り、驚いて振り返る。
「……水だ。」
「ロー。」
まさに今、欲しいと思っていた水をバケツに汲んできてくれていた。
「ありがとう。…手伝わないんじゃなかったの?」
「あ? そんなことを言った覚えはない。」
言ってなくても、そのつもりだったくせに。
どうせ、傍観しきれなくなって、手を出したくなったのだろう。
いつも知らないと言いながらも、風呂嫌いのベポを風呂場へ押し込むのはローなのだから。