第49章 休息
心配されていたことは、知っていた。
再会を喜んでくれたことも、いるはずもない恋敵に嫉妬してくれていたことも。
けれど、自分が傍を離れていた間、ローがどうしていたかなんて、考えてもみなかった。
だって、そうだろう。
いったい誰が、この強引で誇り高い男の、抜け殻のような姿を想像できよう。
落ち込むとか、不抜けるとか、ローには無縁なことだと思っていた。
しかも、その元凶が自分だなんて。
(そのせいで、船の状態に気がつかなかった…?)
なんだろう、すごく…嬉しい。
さっきまでの腹立たしさは、いったいどこへいったのだろう。
頬が緩むのを隠しきれない。
「オイ…、なんだその顔は。言っておくが、今のはコハクの妄想だからな。本気にするんじゃ…って、なんだその顔はッ」
にまにましていたのがバレてしまった。
ローはひどく不機嫌な顔をして、そっぽを向く。
けれど、どんなに冷たい態度をとられても、もはや照れ隠しにしか見えない。
「ムカつく反応しやがって…。それもこれも、お前が勝手な行動をとるからだろうが!」
モモの失態で海軍の手にビブルカードが渡ってしまっても、ローから責められることはなかった。
それなのに、傍を離れたことをこんなにも責められる。
普通、逆じゃないのか。
ローはつくづく、モモに甘い。
「……で、結局どうすんの?」
砂糖を入れすぎたお茶を飲んだような表情をしたコハクが、タイミングを見計らって口を挟む。
「全員叩き起こしてこいッ、今すぐに!」
八つ当たり気味に怒鳴るローに、やれやれと肩を竦めた。
かわいそうなシャチたち。
これはたぶん、手酷い雷が落ちるぞ。
でもきっと彼らは その雷の元凶が、船の汚れではなく、ただの八つ当たりなんだと知ることはないんだろうな。
あーあ、オレ知らない。
ご愁傷様。