第49章 休息
ローとコハクのやり取りに、モモは目を瞬かせた。
部屋に閉じこもっていた?
ローが?
それはアレか。
いつもの読書や研究に没頭するやつ。
彼は一度集中すると、寝食を忘れて閉じこもってしまう。
そういう事態に陥ると、毎度部屋に突入して食卓につかせるのはモモの役目だ。
なにも隠すことじゃないのに…と首を傾げるが、よく見るとローの耳が僅かに赤い。
(え、恥ずかしがってる…?)
なんと珍しい。
ローが恥ずかしがって狼狽する姿など、たぶん初めて見た。
(でも、どうして?)
彼の心境がわからずに じっと見つめていると、なにかを勘違いしたローが、盛大に舌打ちをつく。
「なんだ、なにか言いたいことでもあるのか。…だいたい、誰のせいだと思ってる。」
「え……。」
ローの目には、モモが驚いて見つめていたように見えたらしい。
それは誤解だが、ローの口調には明らかにモモを責める色が見える。
「わたしのせいだって言いたいの?」
まったく見当がつかないが、恨みがましい視線に少し落ち込む。
「当たり前だろう。お前がいないから、俺は…──」
言ってる途中で、ローは我に返ったようだ。
「なにを言ってんだ、俺は」と呟いている。
「なんなの、最後まで言って。」
「……うるせェ。なんでもない。」
忌々しそうに舌打ちをついた。
そんなふうにされると、それ以上聞けなくなる。
どうしていいかわからなくなったモモを見て、コハクが盛大なため息を吐いた。
(なんでいつもそうなんだ。)
勘弁してくれ。
ようやく船に平和が戻ったのに。
「母さん、ローは母さんがいなくて落ち込んでたんだよ。調子が出なくて、部屋に閉じこもってばっかで。」
「てめ…、コハク!」
呆気なくバラされて、思わず唸る。
「部屋で抜け殻みたいになってたのは、どこのどいつだよ。」
笑い混じりに指摘されると、ほんのり色づいていた彼の耳が、より色濃くなる。
「ロー…、本当に?」
意外すぎる答えに、モモは目を丸くする。
落ち込むローなんて、想像できない。
ましてや、抜け殻…。
「チッ…!」
誤魔化しがきかないと悟ったローは、帽子を深く被り、その表情を隠した。
その態度こそが、真実だと告げていた。