第49章 休息
「なんだ、こりゃァ……。」
半ば引っ張られるようにしてリビングへとやってきたローは、その惨状に唖然とした。
「本当に今まで気がつかなかったの?」
この凄まじい散らかりようは、一朝一夕では完成しない。
いつからこんなに汚れてしまったのか、想像するのも難しいが、少なくとも1週間以上はこの状態のはず。
目に入らないはずがない。
臭いだって酷いし、そこら中に小バエが……いや、これ以上言うのはやめておこう。
「こんなになるまで、どうして放っておいたの?」
汚れを、ではない。
その元凶を、だ。
ローは案外きれい好きである。
その彼が、船をここまで汚すとは思っていない。
そうなると、犯人はおのずと絞られてくる。
「ふあぁ…。おはよ、母さん。」
ガチャリとドアが開き、コハクが部屋に入ってきた。
「オイ、コハク。こりゃァどういうことだ。」
モモがローに尋ねていることを、今度はローがコハクに尋ねる。
「これって?」
「このクソ汚れた船のことだ。」
やや怒気のこもった声だったが、コハクは眉ひとつ動かさずに「あぁ…」と呟く。
「しょうがないだろ。2対3だったんだから。」
「2対3?」
「そ。オレとジャンバール対ベポとシャチとペンギン。勝てるはずもないだろ?」
つまり、コハクとジャンバールはそれなりに頑張っていたが、掃除するそばから3人が汚していく…という無限ループに嵌まっていたらしい。
掃除をするのは意外と骨が折れる。
しかし、散らかすのはいとも簡単で、あっという間に敗戦。
今に至る…というわけだ。
「なぜ俺に言わない。」
「そりゃ…、さ。」
口ごもるコハクを横目に、モモはもっともな質問を投げかけた。
「いや…だから、どうしてローは気づかなかったの?」
この状況に気づかない方が、異常だと思う。
「それは……。」
「ローが止めてくれてたら、ここまで酷くはならなかったのに。」
さすがの3人も、ローの命令なら掃除に勤しんだはずだ。
「まぁまぁ。そう言ってやるなよ、母さん。しょうがないだろ、ローはずっと部屋に閉じこもってたんだから。」
「……バカッ、お前!」
慌ててコハクの口を塞ぐも、時すでに遅し。
モモの耳にはしっかりと届いていた。